▼自己愛性人格と社会

町沢静夫氏『自己愛性人格障害駿河台出版社 2005年11月
精神病の大衆向け書物は、紹介されている症例が興味深い。
雇用が不安定化し、あてにしていた年金が不安定になり、殖財は詐欺にあい、ただ「真面目に暮らしてきた」「人に迷惑をかけないよう気をつけてきた」だけではまともな将来が開けない、これまで無料だったサービスは有料になり、これまでなかったサービスも有料で登場してくる。借金すれば人間扱いされないし、働いていても人間扱いされない。

「はじめに」
日本でも自己愛性人格障害の増加、あるいは自己愛的人格の増加は当然認められるものである。……個人主義、その個人の競争社会、そして成功をより強く求める社会とはまさに、自己愛性人格障害の人たちの戦略が繰り広げられる場でもある……。


とりわけ、第四章以降は現代社会批判として興味深い。

第四章 自己愛性人格とモラルハラスメント

第一節日本の家族とモラルハラスメント
第二節日本の企業とモラルハラスメント
第二節日本の企業とモラルハラスメント
第三節企業とセクシャルハラスメント
第四節病院とモラルハラスメント
第五節日本社会といじめ
第六節学校といじめ
第七節政治家とモラルハラスメント
第八節自己愛性人格と犯罪
第五章 自己愛性人格障害と犯罪
第六章 自己愛性人格障害と創造性及び病理


自己愛性人格(障害)の「被害」にあうことは、よくあることであるが、それ自身の治療は難しい。自己愛性人格の人が自分の自己愛的言動や心術の異常に気づけば良いと思われるのだが。

モラルハラスメント

モラルハラスメントについて、町沢氏の言うところを抜粋。

モラルハラスメントは、……非民主的な力によって相手をねじ伏せるものである。そしてそれを行使するのは、自己愛的な人たちなのである。……日本こそ(夫の妻に対する、姑の嫁に対する、先輩の後輩に対する、有力なものが無力なものに対する)封建的な力を背景に、民主的な関係を度外視して、相手を力で批判し、圧倒し、侮蔑を与え、人間の本質を奪い取るような行動が見られる。

企業では、上司は部下を侮辱し、力によっていじめるということは実によく見られるものであり、ある意味で当たり前と言ってもよいものである。……通常の日本の組織の姿だといってよいものである。
しかしわれわれの社会は、……民主主義の社会であることは憲法に記されているものである。したがって、上のものが下のものを平然として侮辱し叱りつけるということは、あってはならないものであるが、……周りもそのことを問題にすらしない……。
……上の者が下の者を思うようにいじめ、力任せに罵倒するということは、その素質の中に自己愛性人格がなければ出来るものではない。
……権力を笠に着て、地位の高さを笠に着て部下を思うようにいじめ、そこには優しい共感がないというのは、それこそが自己愛性人格の特徴なのである。

……現代に至ってなおかつ男女平等が成立しないというのは、多くの他の人たちが「強いものには巻かれろ」という形で自己愛的な上司に逆らわず、封建体制を無言のうちに支えているという風土が日本にあるから、……。

要約:日本は「村八分」を発生させる仲間意識とよそ者排除の風土があり、さまざまな場所でいじめがある。そのいじめの頂点には自己愛的な人がいるものだ。彼らは権力欲が強く、共感性は顕著に低い。
共感性が低いほど、簡単に自己決定ができ、人を支配し・罵倒し、罵倒することによって周りを自分にひきつける。周りの人たちはまじめで几帳面だが小心者が多い。まわりの小心者も笠を求めて自己愛的人物の下にいるが、それによって心が壊れるほどの被害を受けることは良く見られる。
日本では事なかれ主義でモラハラをうまく行きぬくことが「モラル」になっているが、これはモラルではなく不道徳である。

〔政治家の〕選挙の時の平然と一般民衆に頭を下げる姿と、選挙後の堂々と彼らをひれ伏せさせる姿はまったく逆転した姿であり、その姿を平然と駆使できるということは、無神経であり、共感性の欠如であり、権力欲と人を操作する見事な術をわきまえている、〔自己愛的人格である〕。

自己愛性人格と犯罪

ロバート・ヘアーによるチェックリストの抜粋

1. 口が達者であること
2. 自分の価値について、誇大的な価値を持っていること
4. 病的なウソをつくこと
5. 人を操作すること
6. 思いやりや罪悪感が欠如していること
8. 共感性が欠如していて思いやりがないこと
9. 寄生虫のような生活スタイルをしていること
15. 責任性がないこと
16. 自分の行動のために責任を受け入れることに失敗してしまうこと
19. 条件付の自由を破るということ
20. 犯罪面ではきわめて多彩であること


町沢氏コメント

日本の権力者や政治家の特徴は、犯罪的な性格と幾分ダブっていることにわれわれは驚かされるものである。

貨幣の力と自己愛性人格

町沢氏は「はじめに」にかかわらず、こうした力の序列を民主主義に対立する(事なかれ主義などに温存された)「封建体制」に求めている。
私は氏が「はじめに」で触れたように、「競争社会」「成果主義」そして「拝金主義」も自己愛性人格を増やし・増強しているしているように思う。