▼女性に対する暴力を排除することに関する資料など

性暴力の背景には、まず社会全体における女性の地位の低さがある。女性の地位が男性と同等であれば、下記のように女性を「機能」視するような断片化は起こりにくいし、或いはそのような観念は流通しにくいだろう。
人格を都合の良い機能に断片化して(それは女性に限らず子どもや労働者評価などにもなされていることだが)、例えば「産む道具」「セックスの道具」というような女性観が個々の人格から切り離されて、政治やネットでこれでもかと流布されている。他人を淫乱よばわりする政治家自らが淫乱*1な世の中で、その「淫乱」というのがまた女性蔑視に基づいたものだからどうしようもない。
やっぱりポルノが男性の性欲を刺激するだけではなく、セックスに関する女性観をゆがめている、ということが大きな問題なのだろうと思う。日本では両性が互いを尊重した人間関係を、意識的に・苦労して・努力して構築する過程に位置づけられるものとしての、性行為に関する教育というのはほとんどなされてこなかったし、今でもなされていないのだろうなと思う。
オトコが目にする性情報と言えば、どうしても女性を性欲の対象としてのみ取上げたものが文字も写真も動画も圧倒的に多いのであるから、古聖のようにそれらを無視して生活することは不可能である。だからこそ逆にそうではない異性関係をもっとオープンに語らねばならないのだろう(節度をもって)。


そういう立場に立とうとするとき、性暴力についての批判的な知見をキチンと身につけるのは、どうしても必要なことであろう。

性暴力に関する資料とか

女性に対する性暴力、異性からの暴力は少なくないと思われるのに、あまり資料が見つからなかった。なお、平成19年版 犯罪白書によれば、平成18年でだいたい2000件認知されている。NORMAN氏の「どうにもならない日々」にはコメントなく資料が置いてあった。継続して手入れしておられる。

強盗より軽い強姦の罪

論文のたぐいもあまり見つけることができなかった。
一部の抜粋を要約。

性と人権̶性的暴力を許さないために 松島哲久氏(大阪大学、2007年)
 「強盗罪」が刑法第236条で「5年以上の有期懲役」となっているのに対して,「強姦罪」は刑法第177条で「3年以上の有期懲役」である〔2004年に2年から3年に変更〕.執行猶予の条件は「3年以下の懲役」であるから,強盗罪に比しわが国の刑法は強姦罪を軽い罪と扱っていることは否定できない.
 2004年に追加された「集団強姦罪」では「4年以上の有期懲役」,執行猶予が原則認められなくなった点では,重く受け止められるようになったと言うことはできる.しかし,それをあえて「集団」に限定している点で,刑法は強盗罪と強姦罪を質的に違うものと判断していると考えざるをえない.すなわち,私的所有物の「強取」の行為に対する制裁の方が,女性への強制的な精神的・身体的な性的侵害の制裁よりも重いという判断である.この価値観がどこから出てきているのか,つまり,性の犯罪行為を軽く見るその見方そのものを成立させている根拠が問われなければならない.

http://www.oups.ac.jp/eng/bulletin/vol1/06_matsushima.pdf

松島氏は、この論文で「性暴力を誘発するものは何か」と問いを立て、「人権意識の低さ」「人間観の低俗性」であるとし、いくら学生に人権教育をしても、「深い自覚とはなっていない.すなわち,人格への根源的理解に基づいて個人の尊重,人間の諸権利への理解がなされているのではない」という。以下、その理由だとか対策のようなことが述べられているが、私としてはあまり得心の行くものではなかった。
しかし、上の枠内の指摘は興味深いものがある。

性暴力と「神話」

対して、杉村直美氏(愛知県立安城高等学校定時制、豊田地域看護専門学校)の「性暴力と学校—その現状と課題—は実践的で分かりやすい。(岐阜大学 総合情報メディアセンター平成19年度の遠隔授業のスケジュールより。)
例によって、趣旨を曲げない程度に表示や表現を変えています。

1-2 性暴力とはなにか
「性的自己決定権の侵害」
「他者の意志に反して性行為を強要すること」

 性行為に同意するとは、以下の基準をみたしたうえで「はい」とこたえることである

  1. 年齢、成熟、発達レベル、経験に基づいて、提示されたこと(何らかの性行為)が何であるか理解していること
  2. 提示されたことへの反応について社会的な標準を知っていること
  3. 生じうる結果や多の選択肢を認識していること、
  4. 同意するもしないも同様に尊重されるという前提があること
  5. 自発的決定であること
  6. 精神的/知的な能力があること

これらの基準をみたしていない(=子どもに対する)性行為は、すべて性暴力である。


1-3 性暴力にまつわる「神話」(「レイプ神話」)と「事実」
神話と事実、その問題点を挙げる。

  • 神話「変な人や不審者に注意すればいい」→事実は「加害者はふつうの人」
    • 問題点:たとえば路上生活者に極端な嫌悪感、警戒心をいだかせるだけで、予防につながらない。
  • 神話「暗い夜道や一人歩きに注意すればいい」→事実は「加害現場は屋内がおおい」
    • 問題点:女性の行動を制限する。弱者だと実感させるだけで、予防につながりにくい。
  • 神話「若い、きれい、服装が派手など、特定のタイプだけが被害にあう」→事実「より弱そうな人がねらわれる」
    • 問題点:「短いスカートをはいていた」「普段から派手」など被害者の落ち度とされる
  • 神話「被害者が抵抗すれば、被害はさけられる」→事実は「抵抗すらできないほど恐ろしい」
    • 問題点:抵抗しなかった被害者の落度とみなされる
  • 神話「性被害をうけたら誰かに話すはず」→事実「警察の通報率は10 数%以下」
    • 問題点:「かえって非難される」「信じてもらえない」などが言わない理由としてあげられている
  • 神話「女性は強姦されたがっている」→事実「空想することはあっても、現実に望んではいない。コントロールの主体が異なる」

3-3 性暴力の習慣性
 少年の性暴力は「子どものいたずら」「大人になるための性の試み」として軽くみられてきたが、これは「嗜癖化」のはじまりのため、見過ごさない。
 成人の性犯罪者の約半数は、少年期(9〜13 歳くらい)に性犯罪を開始し、徐々に性的攻撃の程度やパターンを学習、悪質化していくという。
 ほかの行為以上に、否認し、認めたとしても初めてを強調し、全力で合理化・いいわけをする→性暴力は、証明されにくいから

http://www.crdc.gifu-u.ac.jp/cerd/scs/resume2k7/scs20070706sugimura.pdf

残念ながら「講義要綱」らしく、少し断片的な資料となっている。


容疑者とされる教育大生が「合意の上だった」などと述べているのも「強姦願望」神話、によるものだろう。また、「性犯罪は女性の態度次第で予防できる」という考え方が、「予防できなかった」被害者を「自己責任」で追い詰める、とか、「でも部活動には熱心だから」「仕事はよくやっている」「将来があるのにかわいそう」と加害者を断片化してかばう傾向の指摘、「内密・穏便」に事件を済ませてしまうことが加害者を免罪し・被害者のみが精神的ダメージを深める、という指摘などは大変興味深く、京都教育大生コンパ集団強姦事件に教訓的である。
大学側の「教育的配慮」で内々に風化させようという態度は、まことに幼稚で見識のない、しかも事実上加害者優位の姿勢と言わねばならない。

その他資料等

第18節[女性・女児の人権]
 女性及び女児の人権は、普遍的な人権の奪うことのできない、重要かつ不可分な部分である。国、地域及び国際的レベルにおける政治的、市民的、経済的、社会的及び文化的生活への女性の完全かつ平等な参加、並びに、性別に基づくあらゆる形態の差別の根絶は、国際社会の優先的目標である。

 文化的偏見及び国際的売買に起因するものを含め、性別に基づく暴力並びにあらゆる形態のセクシャル・ハラスメント及び性的搾取は、人間の尊厳及び価値と両立せず、撤廃されなければならない。これは、経済的及び社会的発展、教育、安全な妊娠及び健康管理並びに社会的支援などの分野における法的手段により並びに国内行動及び国際協力を通じて達成され得る。

http://homepage3.nifty.com/naga-humanrights/shiryo1/vienna.htm

第一条
 「女性に対する暴力」とは、性に基づく暴力行為であって、公的生活で起こるか私的生活で起こるかを問わず、女性に対する身体的、性的若しくは心理的危害または苦痛(かかる行為の威嚇を含む)、強制または恣意的な自由の剥奪となる、または、なるおそれのあるものをいう。
第2条
 女性に対する暴力は、以下のものを含む(ただし、これに限定されない)と理解される。
 (b)一般社会において発生する身体的、性的および心理的暴力であって、職場、教育施設およびその他の場所における強姦、性的虐待、セクシュアル・ハラスメントおよび脅迫、女性の売買および強制売春を含む。

http://myriel.ads.fukushima-u.ac.jp/data/law/bouryoku.html

(強盗)
第236条
 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。


(公然わいせつ)
第174条
 公然とわいせつな行為をした者は、6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
(強制わいせつ)
第176条
 13歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
(強姦)
第177条
 暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、3年以上の有期懲役に処する。13歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。
(準強制わいせつ及び準強姦)
第178条
 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。
 女子の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、姦淫した者は、前条の例による。
(集団強姦等)
第178条の2
 2人以上の者が現場において共同して第177条又は前条第2項の罪〔強姦・準強姦〕を犯したときは、4年以上の有期懲役に処する。
(未遂罪)
第179条
 第176条から前条までの罪の未遂は、罰する。
親告罪
第180条
 第176条〔強制わいせつ〕から第178条〔準強制わいせつ及び準強姦〕までの罪及びこれらの罪の未遂罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
 前項の規定は、2人以上の者が現場において共同して犯した第176条若しくは第178条第1項の罪又はこれらの罪の未遂罪については、適用しない。

http://www.houko.com/00/01/M40/045.HTM#176

刑法に関連して次のような指摘も。

強姦を「公然わいせつ」と説明 京都教育大学長の不思議感覚

6月2日21時5分配信 J-CASTニュース

■大澤孝征弁護士「警察に通告すべき」

 大学が主張する「公然わいせつ」説について、検事出身の大澤孝征弁護士は、こう指摘する。

  「複数の異性との性交渉は、通常は被害者に同意がないというのが常識です。被害者が黙っていたという弁解も通じないでしょう。この事件では、大学側は、認識が誤っていたとしか言いようがありませんね」

 また、公然わいせつも集団準強姦も親告罪ではないため、大澤弁護士は、大学が警察に届けなかったことに疑問を示す。「公務員ならば、通告義務があります。ことは犯罪なので、通告しないのは問題でしょう」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090602-00000004-jct-soci

*1:たとえば「ふしだらな性教育が行われている。これは日教組や文部省が日本固有の倫理を無視してきた事の証拠。男女席を同じくせず、という文化が日本にはあった。家制度を守り、家庭を守らなければならない。欧米流の放埓で退廃的なセックス文化にまみれた破廉恥な大人を日教組は作ろうとしてるのか。日本人は日本固有の倫理で自らを守り、教育すべき」