▼長期失業者のそれぞれの心情と事情と健康

調査シリーズNo.22『長期失業者の求職活動と就業意識』2006年9月1日
労働政策研究・研修機構 統括研究員 伊藤 実 さん
90年代後半以降の雇用情勢の急激で極端な悪化は、完全失業者の急増のみならず、失業構造そのものの変化を伴った。
まず、中高年の世帯主の失業者が、倒産・廃業や雇用調整によって急増した。彼らはこれまで長期雇用慣行に守られ、失業に直撃されたことはなかった。
また、若年不安定就業者や無業者も急増した。
労働力人口に占める長期失業者の割合である長期失業率は上昇したままである(図)。
失業期間が1年以上に及ぶ長期失業者は、賃金等の労働条件、職種・職業能力、年齢などで、求人と求職の間にミスマッチが存在することから発生しているものと考えられている。
しかしこの長期失業者発生のメカニズムについては、これまでほとんど解明されていない。
離職してから失業が長期化する過程で、長期失業者はどのような求職活動を行い、いかなる就業意欲や職業意識を持ち、それらがどのように変化していくのかといった実態を、解き明かす必要がる。
長期失業者の求職活動と就業意識を調べるために実施したアンケート調査の分析結果をとりまとめたものです。長期失業者の属性や求職活動の特徴などを明らかにしたうえで、求められる政策的対応策として「職業相談・指導の強化」「メンタルヘルスの必要性」を指摘しています。
http://www.jil.go.jp/institute/research/2006/022.htm

ハローワーク新宿および同大森に来所した長期失業者にアンケート調査票を手渡し、後日郵送で回収した。
アンケート調査の実施時期は、2004 年12 月から2005 年3 月であり、
1,923 名に配布し、534 名から回収することができた。有効回収率は27.8%であった。

アンケートを作成して・配布して・回収して整理・解析するという作業がどれほどの難事業なのかはわからないけれど、それにしても対象地域も人数も少ないように思う。
しかし、自ら長期失業を体験した者として、少し興味があった。以下は調査結果の断片(網羅的な紹介や要約ではありません)。

長期失業者の特徴

  • 単身者が4割で、年齢階層が高まるほど女性においてその割合が高い
  • 高学歴者の占める割合が特に女性で高い
  • 大企業勤務経験者が3割、正社員勤務者9割、しかし平均転職4回
  • 転職を繰り返すうち
    • 中小零細企業からの離職割合が増えている
    • サービス・運輸などの第三次産業の割合が増えている
    • 管理職、ソフト技術者、製造などの職種からタクシー、ビル・メンテ関連職種、事務・営業が増加
    • 最長勤務企業では正社員9割だったが、離職企業では6割
  • 転職を繰り返すうちにキャリアが劣化し、結果的に失業が長期化したといえる

離職理由と再就職

三大離職理由
  • 解雇された、退職を強要された
  • 人間関係がつらかった
  • 肉体的あるいは精神的に健康を損ねた
40 歳未満の離職理由
  • 仕事が合わなかった
  • 会社や昇進・キャリアに将来性がなかった
  • 労働時間に不満だった
50歳代あるいは世帯主の離職理由
  • 解雇された、退職を強要された
  • 希望退職・早期退職優遇制度に応じた
  • 倒産、廃業による
すぐに再就職したいおとうさん、のんびり探す若い衆(ただし、東京)

なお、長期失業者の離職直後における再就職希望時期は、早期の再就職希望者が半数弱であり、それらは40・50 歳代の世帯主が中心である。これに対して、再就職時期に時間的余裕を持とうと考えている者は、全体の半数強を占めており、30 歳代以下および単身者においてその割合が高くなっている。こうした意識が、結果的に失業の長期化をもたらしている可能性もある。

求職活動における困難

若い世代はインターネットで、50歳代は新聞折込などで求職。
私に意外だったのはカウンセリングの有用性・有効性である。

職業相談やカウンセリングで役立っているものとしては、

  • 職務経歴書などをうまく書けるようになった」(42.5%)、
  • 「悩みや不安を話すことができ精神的に安定した」(31.5%)、
  • 「自分が求める職業や職種を明確にすることができた」(26.4%)、
  • 「自分の持っている職業能力を明確にできた」(24.4%)、
  • 「企業が求めている職業能力や人物像を理解できた」(23.6%)、
  • 「面接や自己アピールのやり方を理解し実践できるようになった」(22.8%)、
  • 「自分の市場価値を確認でき希望賃金額を修正することができた」(22.0%)、
  • 職業訓練など再就職のための行動計画を立てることができた」(18.9%)

となっている。このように、職業相談やカウンセリングは、職務経歴書の書き方といった実務的なものから行動計画の立案といったレベルの高いものまで、更には精神的な支援にまで役立っており、その有用性は非常に幅広いものがある。
……
ヒアリング調査の対象となった長期失業者の中には、「何度も不採用になるとだんだん自信を喪失して面談でオドオドしてしまい、それがまた不採用に直結してしまう」といった悪循環に悩む人達がいた。再就職意欲のある長期失業者に対しては、やはり応募書類の書き方や面接における受け答えの訓練などを行う必要がある。

職業訓練にも6割が積極的。

求職活動における障害

さもあろうという回答結果。

  • 「年齢制限が厳しかったこと」(62.0%)
  • 「希望する職種や仕事の求人が少なかったこと」(59.3%)、
  • 「希望する賃金の求人が少なかったこと」(33.6%)、
  • 「求人内容に自分の技術・経験などが達しなかったこと」(25.9%)、
  • 「正社員の求人が少なかったこと」(24.7%)、
  • 「求人条件と実際の内容が異なっていたこと」(23.9%)、
  • 「技術や経験を活かせる求人が少なかったこと」(19.3%)、
  • 「希望する企業規模や業種の会社の求人が少なかったこと」(16.6%)、
  • 「希望する労働時間や休日の求人が少なかったこと」(14.7%)、
  • 「特に大変なことはなかった」(1.2%)

日常生活の困難

失業は自分も苦しいものがあった。

長期失業者が、日常生活で困り、苦しんでいることとしては、

  • 「生活費の工面が苦しくなり再就職へのあせりが募った」(57.3%)、
  • 「自分に価値がなく仕事が見つからないかもしれないという恐怖感にかられた」(55.7%)、
  • 「どのような仕事に就いたらよいのかわからなくなってしまった」(46.3%)、
  • 「疲れや気力の無さを強く感じた」(34.6%)、
  • 「生活が不規則になって朝起きられなくなってしまった」(27.4%)、
  • 「一日中憂うつで何にも興味が持てなくなってしまった」(22.0%)、
  • 「相談相手がなく孤独で落ち込んでしまった」(21.1%)、
  • 「不眠や食欲減退に悩まされた」(12.2%)、
  • 「パチンコやギャンブル、酒などに出費がかさんでしまった」(3.7%)

などである(自由記入欄ありの複数選択回答)。

長期失業者が大きなストレスやプレッシャーにさらされていることを示唆している。こうした状況に陥っている長期失業者は、個人で現状を改善できる者は少数であり、仕事に関連した職業相談や、精神的あるいは心理的な苦しさを和らげるためのカウンセリングなど、再就職と生活の両面における支援が不可欠である。

ここまで見てくると、内容はともかく「カウンセラー」という職業はまだまだ需要があるのだなぁ、と思う。

求職における「ミス・マッチ」

長期失業者が面接において自己アピールした内容は、

  • 「経験した仕事内容や職種」、
  • 「熱意、やる気」、
  • 「真面目さ」

が、三大アピール項目となっている。これらに加えて、

  • 「協調性や人柄」、
  • 「これまでに勤めた企業のこと」

などの回答率が、比較的高くなっている。

しかし、企業が中途採用者に求めているのは「即戦力」である。
長期失業者が面接において自己アピールした内容において、

「専門的な知識や技術の高さ」、
「仕事上の成功体験と自身の役割、貢献度」、
「採用されたら達成できそうな成果」、
「資格や免許、語学力」
といったビジネスに直結する項目の求職者の回答率は、それほど高くない

このアンケート結果について、

  1. 専門・技術職経験者の多くが、それほど高い専門性や技術を持っていないために、そもそもアピールできなかったという能力・キャリア形成上の弱さという問題
  2. 採用面接において、企業の採用担当者が、どのような答えやアピールを期待しているのかといったことをほとんど理解していない、という情報ギャップの問題

を指摘している。

長期失業者のそれぞれの心情と事情、健康

近年、インターネットの普及によって、求人情報の収集は質量共に飛躍的に高まってきている。今回の調査においても、若い世代を中心として、従来の新聞や雑誌といった紙媒体に加えて、インターネットによる情報収集が活発に行われている。しかしながら、紙媒体にしろインターネットにしろ、求人情報の内容は表面的であり、採用選考の入り口に立ったといった程度である。面接を突破しなければ、再就職は実現しない。
面接では、やる気、態度、印象、人柄といった曖昧な情報が重視されると共に、職業経験・能力、入社後に期待される成果といったものが厳しく問われる。長期失業者の多くは、この面接のハードルを突破できない。突破するには、独力では無理であり、専門家による指導・訓練が必要である。
……
企業が求めている職業能力と自分の職業能力に、ミスマッチが生じているからであることを、多くの長期失業者は理解している。
しかしながら、一人でどのような職業訓練を受け、いかなる資格を取得するのかといった行動計画を具体的に作成することは難しく、専門家の支援が必要である。アンケート結果においても、「信頼のおける人に職業相談やカウンセリングを時間をかけて受け、行動計画を作成すること」や「職務経歴書の書き方や面接のやり方など実践的な指導を受けること」を希望している者が多い。

ヒアリング調査の対象者にも、適切な職業指導を行えば長期失業者にならずにすんだケースが複数あった。30 歳代の男性は、カラオケやコンビニの店長で辣腕を振るい、経営不振で苦しんでいた店舗を黒字化するという優れた能力があるにもかかわらず、全く分野の異なるビルメンテナンス関連の技術者資格を取って再就職した。だが、職場に合わず短期間で離職し、長期失業者となってしまっていた。
どうしてこうした行動をとったのか分析すると、経営の立て直しに成功した都度、経営者に賃上げ交渉をしたところ、いずれも暫くしてから突然解雇されたというのである。カラオケ店は、黒字化したのを契機として経営者が店舗を売却したため解雇されたのである。コンビニの経営者は、後任の店長を雇って長期失業者となってしまった男性の改革手法を踏襲させていたそうである。こうした解雇によって、本人は人間不信に陥り、人と余り会話をしないですむ職業を選ぶことを決意し、専門学校に入って資格を取り、ビルメン関連の会社に再就職したというわけである。
……専門家に職業相談・指導を受けていれば、時間と金の無駄使いともいえる再就職行動を、回避できたはずである。

また、大学の情報工学科を卒業して技術開発型の中小企業に就職したが、運悪く会社が倒産してしまったために失業してしまった20 歳代後半の青年は、驚くような生活行動を繰り返していた。退職金が底をつくまで家にいることを決め込み、2 年間は自由な生活を謳歌することにしたそうである。生活費は月額10 万円、コンビニに行く以外は、ほとんどアパートでパソコンかテレビを見るという生活をしたとのことであった。
貯金が残り少なくなった頃から、インターネットで求人検索を毎日行ったが、いざ職務経歴書を書こうとすると面倒になり、応募することを止めてしまうといったことを繰り返していた。たまたまハローワークに相談に行ったところ、親切な相談員が履歴書を書くのを手伝ってくれ、面接のやり方も教えてくれた結果、大手情報会社の関連会社に正社員として再就職することに成功したのである。「就職してみて分かったことですが、2 年間の技術的ブランクはかなりのもので、同年代の技術者よりも自分の技術レベルがかなり低いことに焦りを感じています」と述懐していたことが印象的であった。

失業が長期化するきっかけとなった離職理由は、解雇、健康、人間関係による者が多く、失業のダメージが非常に大きかったものと思われる
実際、ヒアリングした長期失業者の中には、抗鬱剤を服用していた者が複数おり、いずれも職場や上司からのパワハラ、セクハラによって体調を崩して離職し、何回かの採用選考面接に失敗したことによって自信を喪失し、鬱の状態が悪化してしまったケースであった。
また、こうした深刻な状況に追い込まれてしまった者の多くは、単身者であった。単身者は家族の助けといったことがないまま孤立化してしまうケースが多く、病状が一層悪化してしまうという悪循環に陥ってしまう。さらに、鬱病といった状況にまで悪化しない者も、朝起きて昼間活動するといった生活のリズムを維持できなくなってしまう者が多く、アルコール依存症で健康を損ねてしまうケースもあった。
こうした長期失業者の生活実態を反映して、再就職するためにこれからどのようなことをしてみたいかという質問に対する回答として、「生活のリズムを崩さないために毎日どこかに通うこと」や「同じような境遇にある人達が集まって情報交換ができる施設に通うこと」が、高い回答率を示している。
既に、ハローワークと連動したキャリア交流プラザが稼働しており、そこでは失業者が相互に情報交換したり励まし合っているが、残念なことに施設の数が少なすぎるため、失業者の受け皿としての機能が不十分である。むしろ、キャリア交流プラザのような拠点施設に加えて、ハローワークに併設するといった分散型の施設を多数設置することが有効であろう。
さらに長期失業者の中には、既に指摘したように再就職可能な健康状態にはない者も含まれているため、専門家による再就職支援とともに、医学的治療と連携したシステムを整備する必要がある。
いずれにしても、長期失業者を発生させないためにも、また長期失業者を再就職させるためにも、規則的な生活のリズムを崩さないような仕組み、さらには離職後早い時期に同じ専門家(特定個人担当者)によるきめ細かなカウンセリング、行動計画の作成、職業訓練の実施といった一連の再就職支援プログラムが、円滑に実施される社会的システムを整備・拡充する必要がある。


最期はなんだか早く就職しなくちゃ・させなくちゃという強迫じみた感じになってきたが、失業者の健康問題は彼・彼女が孤立している場合は大きく深刻な現実的な課題である。
前職場での「うらみ・つらみ」は時間がなければ解決しないし、朝起きるとか、時間を守るとかいう作業も一大事業である場合がある。
毎日緊張して働いている身からすれば、朝起きられないとか気力が出ないとかいうのは失業者の贅沢・怠惰であるように映ってしまう。
しかしこれを突破しなければ、スタートそのものにならないのである。

私は役人でもなんでもないので、月並みでありますが、焦らず・がんばって欲しい。