▼アメリカの医療事情と人権

生存権の思想

生存権という概念は法学・憲法学でどのように位置づけられているのだろうか。日本国憲法25条に規定されているのだから、まさか単なる時々の政策的オプションだとは位置づけられてはいないだろう。
世界の「先進国」で生存権はどのように位置づけられているのだろうか。
生存権という概念が戦いの武器になるのか、いつでも削減される受給者の負い目としての存在形式しか持ち得ないのか。つまり青年にとって主権者としての・生存権者としての自立は大切なことだと思う。
また、福祉を単なる施しのみならず、納税者に対する負担・依存と考え、没落しつつある中流意識に敵対するものだととらえるイデオロギーとの闘争が日々重要になってきていると感じられる。闘争を仕掛けているのは生存権の側ではなく、自分は福祉の世話になっていないと考えている「中流」意識階層である。


カネで買う生存権

アメリカでは、認知症老人の肺炎に対しては、公的医療は抗生剤を投与しないのだとか。(又聞き)
新自由主義的原則によれば、カネの切れ目が命の切れ目であり、アメリカはその点潔いほどだ。

頭蓋骨が半分ないまま4カ月放置 病院とメディケイドのお役所仕事で再手術を受けられず……米ユタ州

海外ボツ!News 05/13/2004
http://www5.big.or.jp/~hellcat/news/0405/13a.html
抜粋

元ウェイトレスのブライアナ・レーンさん(22)は今年の1月、交通事故にあい、瀕死の重傷を負ってユタ大学健康科学センターのERに運び込まれた。応急手術で、頭蓋骨の半分を除去し、応急手当。すぐには戻せない状態だったので、次の手術で頭蓋骨を元に戻す手順になったが……再手術が行われるまで、なんと4ヶ月も待たされたのだ!
頭蓋骨がないので、もちろん脳は薄い膜に覆われただけ。冗談みたいな話だが、病院からはむき出しの脳を保護するために、ストリートホッケーのヘルメットを渡されたそうな。
たんに屈んだりするだけでも脳味噌が心配で、非常に苦痛を感じたという。毎朝、目を覚ますと、脳が偏って《寝癖》がついているのがわかったというからちょっとホラーだ。
レーンさんが、低所得で保険に加入していなかったため、病院側と「メディケイド」(65歳未満の貧しい人々を対象にした医療制度)が再手術の費用を誰が負担するかをめぐり、延々と官僚的手続きを行ったためだ。
病院側の説明はこうだ。レーンさんのように保険に未加入で低所得の場合、メディケイドが身体障害の認定を行わない限り、手術が受けられない。この手続きには、最低90日はかかるものだという。
結局、メディケイドは、レーンさんは「身体障害基準」に達していないと判断、手術費をカバーすることを拒否した。
一方、医者は、患者の状態が緊急治療を必要とすると判断し、書類にサインをすればすぐにでも手術を行えたという。ただしこの場合は、手術費は患者負担となる。
この病院とメディケイドの官僚的なやり取りに業に煮やしたレーンさん、地元テレビ局に苦境を訴えたところ、あ〜ら不思議、急に手術を受けられることになったという。医者があわてて「手術をするのに最良の状況になった」ため、例の書類にサインをしたらしい(笑)。
結局、4月30日に再手術。病院の冷凍庫に保管されていたレーンさんの頭蓋骨は無事に戻され、術後の経過も順調だそうだ。しかし、手術費を誰が負担したもか、もしくはするのか、レーンさんは知らないそうだ。

中産階級貧困組にようこそ

ケアラーズマガジン ニューヨークレポート アメリカの健康保険
http://popo.or.jp/carecare/cm/0508/report/

進藤由美/コロンビア大学大学院公共政策NPOマネジメント専攻
さて、6月号でお話が途中となってしまったアメリカの健康保険の件ですが、今回はメディケイド(低所得者医療保険)についてご紹介します。メディケイドはもともと、未婚のまま子供を産んだり、離婚をした若い母親とその子供達への救済プログラムとして始まりました。その後、母子家庭だけでなく、低所得者全員をカバーするための保険として確立され、現在では母子家庭のほか、障害者や高齢者、失業者などが受給の対象となっています。

メディケイドの素晴らしいところは、一度受給の対象となると、ほとんどの医療費がメディケイドによってカバーされる、という点です。私がボランティアで病院への付き添いをしていたIさんは、2001年に病院に長期入院しているときに医療費で破産してしまったため(アメリカでは珍しい話ではありません)、メディケイドの受給者となりました。彼女は糖尿病を患っていたのですが、病院での診察費や処置費だけでなく、薬代やタクシー代までが支給されていました(注:タクシー会社は指定されます)。

「うらやましい」と思った方、いらっしゃいませんか? 実は私も付き添いをしながらそう思ったんです。

しかしよく考えてみてください。このメディケイド、政府がお金を負担しています。ということは、もとは市民の税金なんです。Iさんにとっては無料のレーザー治療やタクシーも、もとを正せば市民の税金。こういう使い道は正しいのでしょうか?

アメリカの、とある保険会社の広告にこんな言葉がありました。「Welcome to Middle Class Poverty」中産階級貧困組にようこそ! というところでしょうか。近年、アメリカではミドルクラスと呼ばれる中産階級の人たちの間で、医療保険を持っていない人が増加しています。医療保険費が毎年うなぎのぼりにあがっていくために、解約する人が多いからです。また最近では雇用者が医療保険をカバーしなくなってきています。そのためミドルクラスの人たちは、お給料は人並みにもらっていても、医療保険を持っていないため、万が一のことがおこったら、それこそ全財産をなげうって病院に入院しなければなりません。


ちなみにこれは高齢者医療でも同じことです。前回お話したように、メディケア(高齢者用医療保険)は急性期の病気だけをカバーする保険のため、長期にわたる医療・介護は、自分でお金を払わなくてはなりません。お金を使い切って破産、という事態にならなければ、メディケイドは支給されないのです。

あとで読もうと思うもの

医学書院/週刊医学界新聞 連載 市場原理に揺れるアメリカ医療(21) メディケイド(1) 無視できない市場

http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n1998dir/n2273dir/n2273_04.htm

医学書院/医学界新聞【〔投稿〕米国では治療中止の判断はいかに行われているか(伊藤大樹,関根龍一)】(第2693号 2006年7月31日)

http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2006dir/n2693dir/n2693_02.htm