▼包括的な青年への支援を

http://www.jil.go.jp/institute/reports/2006/072.htm

労働政策研究報告書 No.72平成 18 年 11 月 28 日
独立行政法人 労働政策研究・研修機構

大都市の若者の就業行動と移行過程

―包括的な移行支援にむけて―

なかなか、読めずにいたが。
サマリーを薄めて圧縮してメモする。一部紹介。
調査対象は、

  • 2001年2月 東京都 18-29歳 正社員1000人、フリーター1000人
  • 2006年2月 東京都 18-29歳 若者2000人

教育から職業への「移行」の問題

1990年代後半から若年失業率・若年無業者・非正規不安定雇用が増加した。日本においては「大人になる」ことが「教育から職業への移行」であって、「職業訓練」「社会保障」「キャリア形成」など「移行期」の問題は企業によって保障されていた。ところが失業や不安定就業状態にある若者の増加によって、この「移行」の変容から「未婚化」「若年ホームレス」「年金」「健康保険」「家族形成」「住宅」など多岐にわたる問題が顕在してきた。
OECDの資料に基づき社会保障給付費の国際比較をすると、日本は若年者に対するそれがもっとも低い(広井良典,2006,『持続可能な福祉社会』ちくま新書)。この公的支援の手薄さを補ってきたのが企業福祉・家族・公共事業・(構造改革で撤廃対象となる)保護や規制であった(宮本太郎・イトペング・埋橋孝文,2003,「日本型福祉国家の位置と動態」,エスピン・アンデルセン編『転換期の福祉国家早稲田大学出版)。「日本では【人間としての権利】を実質的に保障するものは、法的な市民権というよりも、……企業社会におけるその人の地位である」(渋谷望,2004,『魂の労働』青土社)。


支援は正社員も含めた全ての若者を対象に

教育から職業への移行の問題は、正社員の長時間労働離職率の高さなどの問題が示すように、正社員もフリーターなどと「地続き」の問題として捉えられなければならない(熊沢誠,2006,『若者が働くとき−「使い捨てられ」もせず「燃えつき」もせず』ミネルヴァ書房)。
また、教育から職業への移行を中心に、家族形成、福祉、住居、ソーシャルネットワークなどにおいても展開される移行過程を視野に入れるべきである。

  1. 移行問題は就業問題だけではない
  2. 就業以外での分野での問題を抱える若者層と、彼等への支援の必要性(例えば住居を確保しないと就業に着手できない)
  3. 正社員でありながらも何らかの問題を抱え、失業・フリーターをも繰り返すなど、移行は一直線ではなくジグザグの過程をたどる

得られた知見

調査結果より

就業状態は若者の生活全体に大きな影響を及ぼしている

単なる経済的安定や独立だけではなく、相談ネットワークにみる若者の生活世界をも左右している。逆に若者を不安定な状態に放置することは年金・税金など経済的問題のみに「とどまらない、どのような社会的帰結を生むか」憂慮しなければならない。

非典型雇用が一般化・普通化し、移行期間が長期化している

非典型雇用が一般化して、「危機感」が生ぜず、正社員になろうというインセンティブも機能しにくくなっている。

学歴は正社員としての就業機会を規定する

もっとも教育費負担が重くなる18歳以降の親の担費力が高等教育への進学、ひいては正社員への扉の鍵を握っている。

正社員の長時間労働は、非典型雇用との単位給格差を縮小

むしろ正社員は極端な長時間労働や生活の質の相対的な低下など、問題は拡大しつつあるように見受けられる。若者支援はフリーター・ニートに限らず、若者全体を視野に入れねばならない。

政策提言

  1. 学歴獲得機会の拡大と、職業開発機械の提供
  2. 若者の働き方全体の見直しと、非典型雇用の諸群の再検討が必要
  3. 企業に対して、正社員登用やフリーター歴を職歴として評価するよう働きかけること
  4. 若者のソーシャル・ネットワークを広げる機会を設けること(フリーターや無業者はネットワークを広げる機会が得られていない)
  5. 就業以前の問題でつまづいている若者へのトータルな支援が可能になる「しくみ」の整備