不安の向こうに楽な仕事が?

未来経済研究室

小村智宏(おむらともひろ)氏 三井物産戦略研究所 経済・産業分析室 主任研究員
http://www.study-mirai.org/works/the_world_compass0307.htm
例によって、主観的読み込みなので、正確なところは原文をご覧ください。
青年たちの現在の雇用・就労に関する不安や諦めの向こうになにがあるか、小村氏は「明確にしてやる」必要があるという。読み間違いか知らんけれど、「明確にしてやる」とは、ここでは指し示しているというよりは予言してあげているという感じだろうか。
それは、どういうライフサイクルかというと、少子化によって労働力不足になっているので労働者を歓待してくれる企業に就職するか、自分が小企業になるか、NPONGOなどの半企業になるか、フリーターになるかであるのだそうだ。
ここでは労働力の国際的流動化ということや労働者の権利、賃金ダンピングというようなことはあまり考えられていない。楽でやりがいのある仕事が増えるとは言わないが、消費生活ではなく楽で有意義な仕事に豊かさがあると、あたかもそんな社会が到来するかのような文章に読める。

The World Compass三井物産戦略研究所機関誌)
2003年7-8月号掲載

若者たちの未来−不安の時代を超えて−

 2003年初め、読売新聞は全国5,000人の10代の若者を対象とした「全国青少年意識調査」を行った(有効回収2,942人)。

  • 「全国青少年意識調査」について「全国青少年意識調査」について
  • 対象者 全国の12歳以上の中学生から19歳まで(1983年2月1日から90年4月1日までに出生)の男女5,000人。住民基本台帳から層化2段階無作為抽出法(全国250地点)。 
  • 実施方法 郵送自記式(インターネット回答併用)
  • 実施日 2002年12月17日投函
  • 有効回収 2,942人(回収率58.8%、インターネット回答78人含む)
「不安の時代」の若者たち

 世紀の変わり目から数年間の日本経済の状況を一言で表すとすれば、「不安の時代」という表現が最もふさわしいのではないだろうか。テレビや新聞でも、終わりの見えない不況、相次ぐ企業倒産、リストラ、官庁や企業の不祥事、テロ、戦争、疫病と、私たちの不安をかきたてる話題のオンパレードだ。
 読売新聞の調査でも、「日本の将来は明るいと思うか」という設問に対して、「明るい」と答えたのは「どちらかといえば明るい」という回答を合わせても4分の1に満たず、大部分の若者が日本の将来を「暗い」と予想している。自由回答として寄せられた意見も、「将来が心配」といった悲観的なものが目立っている。
 若者たちの不安の高まりは、現在の不況の長期化が大きな要因となっていることは間違いないが、より長期的な視点で、将来の日本に対する不安も膨らんでいるものと考えられる。確かに、急速に進んできた少子化の影響で、経済成長が鈍化することは避け難い。
 筆者が試算した2050年までの経済成長率の見通しは、相当楽観的なケースでも、成長率は1パーセント台前半を維持するのがやっとという時代になる。成長率だけで見れば、「失われた10年」と呼ばれた90年代のような状況が、延々と続くイメージである。

努力しても報われない?

 低成長は必ずしも経済の停滞を意味しない。これからの時代は、経済の規模は拡大しなくても、技術の進歩や消費者の変質など、質的な変化は従来よりも遥かに目まぐるしくなる。
 激しさを増す時代の変化は、企業にも個人にも進化を要求する。時代に取り残された企業や個人は容赦なく仕事を奪われてしまう。そうした厳しい状況は、90年代以来の長期不況を背景に、すでに定着しつつある。それがまた若者たちの不安をかきたてる要素となっているのだろう。
 大多数の10代の若者が直面している勉強とか受験に関する「努力」を疑問視しはじめている可能性がある。「今の日本は、努力すれば、だれでも成功できる社会だと思うか」という問いに対して、4人に3人が「No」と答えているのである。これは社会に出る前の若者が、昨今のテレビや新聞の報道から、漠然と不公平な社会をイメージしるというだけではない。 「学歴が高い方が、自分の将来に有利だと思うか」という問いに対して、「とても有利」という認識の人は全体の3割弱にとどまり、「多少は有利」という冷めた見方をする若者はその2倍、6割近くに達しているのである。
 「努力しても無駄だ」という認識、学歴の持つ重要性が薄れてきているという認識は、90年代の長期不況が終身雇用制を崩壊させ、今では転職やリストラが珍しくなくなった今日、誤りではない。転職の際の就職活動では、学歴よりも、どんな仕事をしてきたかや、どんな専門性を持っているかの方が重要になる。
 努力しても報われないという思いは本人にとっても社会にとってもよろしくない。それを避けるには、「学歴」に代わる努力の対象、さらには「良い大学を出て良い会社に勤める」という従来型のサクセスモデルに代わる新しい人生設計のモデルを明確にしてやることが必要だ。

未来の「生き方」

 今の10代の若者たちは、日本全体が将来のイメージを見失っているなかで人生の大部分を送り、自分自身でも努力する対象を見失っている面もある。
 「どんな人生を送りたいと思うか」。この問いに対する答えの上位は、七つの選択肢(複数回答可)のうち「好きな仕事につく」、「幸せな家庭を築く」、「趣味などを楽しむ」の三つが占め、それらに次ぐ「金持ちになる」を大きく引き離している。これは、今以上に贅沢な消費生活よりは、ゆとりのある生活や、自由に仕事が選べる社会を望む若者が多いということだ。となれば、これからの生活水準の上昇は、消費の拡大よりも、仕事の充実や負担の軽減といった形で実現される方が望ましいということになる。
 能力を生かせる仕事、やりがいのある仕事、面白い仕事、時間が自由になる仕事、お金を稼げる仕事。それぞれが望む生き方に見合った仕事を選べる社会が、理想の未来像として浮かび上がる。
 仕事の場については、選択肢はすでに広がりつつある。NPONGOベンチャー企業設立、そしてもう一つ。「フリーター」という生き方である。稼ぎの多さよりも自分の時間を大切にする生き方は、徐々に社会的な認知を得てきている。今回調査でも、6割近くの若者が、フリーターという生き方に理解を示しているし、自由回答欄にもフリーターを擁護する意見が目立っていた。
 ただし、フリーターに理解を示すといっても、その意味合いは大きく二つに分かれているようだ。一つは、「仕方ない」とか「好きでやっているわけではない」といった消極的な意味での理解である。その一方で、「夢の準備期間としてフリーターしてる人は応援したい」とか、「夢を探すためにフリーターやってる」というような、限定的ながらも積極的に評価する声も少なくなかった。

豊かさは仕事から

 NPONGOベンチャーなど、新しい仕事の形態が一般化することで、企業での仕事の性質も変わっていくだろう。ただでさえ労働力人口が減少していくなかで、人材がフリーターや社会活動、ベンチャーへと流れれば、既存の企業は事業を維持するための人材確保に苦労することが予想されるからだ。
 すでに多くの企業が、優秀な若手の流出に悩まされている。企業は、優秀な人材をつなぎとめるために、あれこれの方策を講ずるので、これからの企業は、自由とやりがいを求める者にとって、より働きやすい場となっていくことが期待できる。
「仕事」の性質は時代とともに変化してきた。日本で、企業が最大の「仕事の場」となったのは、せいぜい、ここ二世代ほどのことに過ぎない。次の世代でその状況が崩れても、さほど驚くような話ではない。
 「仕事」というのは、辛い、苦しい、束縛されるといったネガティブな面と、人や社会の役に立ったり自分の能力を発揮することで喜びを得るというポジティブな面を併せ持っている。仕事の選択肢の広がりは、ネガティブな面を薄め、ポジティブな面を強める動きと言える。仕事は、「いやいややる辛いもの」から、「喜んでやる楽しいもの」へと性格を変えていく。若者たちの未来の豊かさは、消費や遊びよりも、仕事の辛さの軽減や、仕事から得られる喜びの拡大といった形で実現されていくのではないだろうか。