▼アベノミクスの罠(下)

2013-07-13 赤旗【経済】
中央大名誉教授 高田太久吉さん

行き詰る資本主義

 「アベノミクス」がうまくいかないのは、いま起きている経済の根本問題が雇用と賃金にあるという認識が、安倍政権にないからです。

構造に矛盾


 日本経済の回復を妨げている最大の障害は、通貨の不足ではなく、雇用と賃金が増えないことです。健康で働く意思と能力を持った人たち、とりわけ若年層に、企業は人間らしい雇用を提供することができなくなっています。ここに日本経済だけでなく、世界経済が抱えている最大の問題があります。
 大企業がばくだいな内部留保をためこむ一方で、きちんとした正規の雇用を増やさず、賃金も上げないのは、大企業の利潤がこの不正常な雇用関係と低賃金に依存しているからです。この状況を改善しない限り、持続的な経済回復はありません。
 したがって、労働組合は、雇用増や賃上げを強く要求していかなければいけません。
 最近安倍首相も雇用や賃金について口にするようになっています。しかし、首相が企業に要請したからといって、企業が本気で雇用と賃金を増やすことはないでしょう。経営者にすれば、労働市場規制緩和のおかげで、正規雇用を増やさなくても、低賃金の非正規雇用を利用できる。さらに、海外で低賃金労働を利用することもできる。なのに、わざわざ国内で正規雇用を増やし、給与を上げないといけないのか―というわけです。
 それが現在の資本主義の姿であり、裏返せばいまの資本主義はそこまで追い詰められているとも言えます。これは、現代資本主義の構造的な矛盾の表れであり、この矛盾を突破する処方箋(しょほうせん)は、資本主義の構造自体を大きくつくりかえることなしには出てきません。

雇用と賃金


 したがって、日本でも早期に経済政策の目標を、的外れのデフレ脱却から、雇用創出と賃金回復に切り替える必要があります。しかし、安倍政権の「世界で一番企業が活動しやすい国」をめざす成長戦略は、展望のある雇用政策も賃上げも不可能にしてしまいます。
 安倍政権が金融緩和に続いて打ち出している、強靭(きょうじん)な国土づくりという成長戦略がいみしているのは、すでに限界が見えはじめている金融バブルを、新たな不動産バブルにつないでゆく戦略でしかありません。
 ずてに首都圏でも兆候が見られる不動産バブルがさらに膨張すれば、その資産効果を通じて、相乗的な金融バブルをもたらしもす。それは、1980年代末の金融・不動産複合バブルの再現です。
 これを回避するためには、過去数十年間、日本経済を出口のない隘路(あいろ)に追い込んできた新自由主義的な政策を根本的に改める必要があります。
 若者に生きがいを与え、かれらの能力を本当に伸ばしていくような仕事、日本社会の将来に対して信頼感や安心感を持てるような雇用をどうやったらつまりだしていけるのか―。雇用創出と賃金確保による経済回復の展望を提示し、そのための政策を打ち出せる政党や政治が、いま求められていると思います。