▼アベノミクスの罠(中)

2013-07-12 赤旗【経済】 中央大名誉教授 高田太久吉さん

日本発の経済危機も

 安倍晋三首相の経済政策であるいわゆる「アベノミクス」は、大きくいって三つの罠(わな)に陥っており、それが成功する見込みはほとんどないと考えています。

国債破たん


 第一は、「国債の罠」です。「アベノミクス」が政策の目玉に掲げている2年以内に2%の物価上昇を達成するという目標と、成長戦略のための国債増発が完全にぶつかるという問題です。
 「アベノミクス」が目標にしているように物価上昇が2%以上になれば、国際の利子率も2%異常に引き上げなければなりません。物価が上がっているのに国債の利子が上がらなければ、実質金利がマイナスになり、投資家は国債を買えば買うほど損をすることになることになるからです。
 現在、銀行をはじめ日本の金融機関は莫大な国債保有しています。日銀の報告によれば、国債の利回りが1%上昇すると、大手銀行が保有する国債の目減り損が3兆数千億円になるといいます。2%なら、6兆〜7兆円になります。
 それだけではありません。そんなに利子率が高くなれば現在の国際を買いかえることも、新たに国債を発行し続けることもできなくなります。どの国でも、低利での国債発行を長期に継続すると、国債の利回りを大幅に上昇させる政策は不可能になります。
 第二は、「ゼロ金利流動性の罠」です。金融緩和が続き、すでに金利がゼロに張りついて何年もたっているときに、さらに金融緩和をしても資金は市場に出回らないし、金利も下がりません。日銀がいくら金融機関から国債を買い上げても、そのお金は銀行の日銀預金としてたまってゆき、いずれ金融バブルや不動産バブルを引き起こします。したがって、リフレ論者が言うような投資も雇用も増えません。
 

方向性失う


 最後は、「約束と期待の罠」です。安倍政権は、2年以内に物価上昇2%という目標を掲げ、これを達成するまで徹底的な金融緩和を続けると宣言しました。
 いったん政権がこのような起源と数値を限定した目標を掲げると、企業も投資家も期限内に物価が2%まで上昇することを「期待」として織り込んで行動することになります。もし、安倍政権がその目標を達成できなければ、政権に対する市場の信頼はなくなり、金融市場は方向性を失って大混乱になります。
 おそらく、混乱は日本だけにとどまりません。1990年代のバブル経済でも、金融緩和で過剰に供給された資金がバブル崩壊とともに大量にアジアに持ち出され、アジア危機を引き起こしました。さらに、それが韓国、ロシア、中南米、最後はニューヨークにまで波及し、世界経済に大混乱を与えたのです。現在の国際金融市場の混迷状態を考えると、「アベノミクス」が行き詰ったときにには、アジア危機異常の混乱を世界経済にもたらす可能性があります。
 以上のように、物価目標が達成できなければ安倍政権は国民の信頼を失って窮地に陥り、反対に物価が上昇すれば、今度は財政と金融が行き詰る―。これが「アベノミクス」の陥っている罠です。