▼アベノミクスの罠(上)
2013-07-11 赤旗【経済】
雇用政策なき経済戦略
安倍晋三政権のもと、日本銀行は「異次元の金融緩和」を進めています。その問題点について、中央大学の高田太久吉名誉教授に聞きました。(聞き手 佐久間亮)
安倍政権で内閣参与をつとめるエール大学名誉教授の浜田宏一氏をはじめ「アベノミクス」論者は、わが国の長期デフレ(物価下落をともなう経済不振)も円高も、貨幣現象だと強調しています。つまり、経済回復の重石になっているデフレと円高の責任は、日銀の金融政策にあるというわけです。そこから、デフレ脱却の方法として、2年以内に物価上昇率を2%に押し上げる「これまでと次元の違う金融緩和」を進めています。
この「アベノミクス」にお墨付きを与える議論として、ポール・クーグルマンとジョセフ・スティグリッツが引き合いにだされています。ともにノーベル賞受賞者で「アベノミクス」を高く評価する発言をしています。
米の学者も
しかし、クーグルマンやスティグリッツは、ケインジアンですから、金融政策で問題が解決できるとは考えていません。安倍政権のもとで日銀が進めている金融緩和は、雇用対策や成長戦略が整うまでの時間稼ぎにすぎないという位置づけです。クーグルマンは、「アベノミクス」は成長戦略がはっきりしないと注文をつけているし、スティグリッツは、賃上げ、社会保障、女性や若者の雇用を促進する政策の重要性を指摘しています。
2007年の金融危機までは、各国の中央銀行は、追加の安定だけに責任を持つべきで、雇用や貿易収支には責任を負わないというのが基本的な考え方でした。そういうことに関与すれば、時々の政権に引きずり回され、中央銀行として自立的な金融政策ができなくなる。その結果、急激なインフレ(物価上昇)やバブルが生じてきたことを歴史は示しているからです。
いま、米国でも第3次量的緩和がとられ、毎月400億ドルというお金が市場に流れています。しかし、連邦準備制度理事会(FRB)も、こうした量的緩和をいつまでも筒けられるとは考えていません。めどとして、米国経済が好転して失業率が6.5%以下に、物価上昇率が2.5%以下になれば、現在の量的緩和政策を終了する方向に政策転換を図っています。
現在、米国の物価上昇率はほぼこの目標を達成したので、残っているのは失業率です(5月は7.6%)。したがって、FRBは失業率の推移に注目して政策運営を進めていると思われます。