▼国内における餓死者の推移---「栄養失調」死は「餓死」なのか?

  • 調べたり想像したりした結果、統計の「栄養失調」による死亡を「餓死」にカウントするのは慎重にした方がよい、という結論に至りました。
  • ここでは、「餓死」について、食べたいのにオカネやまともな食べ物がなくて、おなかがすいて、栄養不足になって死んでしまうこと、と理解することにしています。もちろん、「餓死」や「飢餓」の概念はもっと広いのだ、という意見や常識があるのかもしれませんが。
  • 「栄養失調」による死亡は高齢者に多いので、それを「餓死」にカウントしないにしても、別の深刻な問題があるように思います。また、「餓死」そのものも社会的には一件たりともあってはならないと私は思っています。

共産党高橋議員事務所の示した資料

宮本徹という人のツイートの画像をテーブル化したもの。
写真は赤旗だろうか? 人口動態調査の資料を見てもどこにその「食糧の不足」というのがあるのかわからなかった。違うものをみていたのだろうか。 後述

栄養失調(A)食糧の不足(B)計 (A)+(B)
20001227871314
011252631315
021287671354
031338931431
041385681453
051670771747
061520561576
071604441648
081684631747
091598581656
101666361702
111701451746
高橋ちづ子議員事務所作成 出典:国会図書館社会労働課が厚労省人口動態調査をもとに作成

データソース

ソースがやっとわかった。
これは、2011年であれば、人口動態統計の2011年


死亡 1 「死亡数、性・年齢(5歳階級)・死因(死因基本分類)別」の二つのファイル

  • 「(1) ICD-10コード A〜T 」
  • 「(2) ICD-10コード V〜Y、U 」


から得ることができる。

  • 前者(「(1) ICD-10コード A〜T 」)表の「栄養失調(症)(E40−E46)」の総数は1701
  • 後者(「(2) ICD-10コード V〜Y、U 」)の表中の「X53食糧の不足」は45

これで上の表と合っている。50歳代以降に餓死者が多いこともCSVファイルでわかる。
「餓死」をこの二種類のコードに絞ったのは高橋議員ではなく「国会図書館社会労働課」であるというところが、ミソですな。
ただし、これらのCSVファイルは分類の記号しか表示していない。下に引用した記号の説明は、ICD-10の分類の構成(基本分類表)のファイルを探すと載っている。

栄養失調(症)(E40−E46)
 E40  クワシオルコル
 E41  栄養性消耗症<マラスムス>
 E42  消耗症(性)クワシオルコル
 E43  詳細不明の重度たんぱく<蛋白>エネルギー性栄養失調(症)
 E44  中等度及び軽度のたんぱく<蛋白>エネルギー性栄養失調(症)
  E44.0  中等度たんぱく<蛋白>エネルギー性栄養失調(症)
  E44.1  軽度たんぱく<蛋白>エネルギー性栄養失調(症)
 E45  たんぱく<蛋白>エネルギー性栄養失調(症)に続発する発育遅延
 E46  詳細不明のたんぱく<蛋白>エネルギー性栄養失調(症)

無理ながんばり,旅行及び欠乏状態(X50−X57)

 X53  食糧の不足

あー、すっきりした。

「栄養失調」死は「餓死」なのか?

それにしても、栄養失調による死者が多い。
だいたい死亡診断書(PDFファイル)は、ア)直接死因、イ)その原因、ウ)その原因、エ)その原因、そして直接死因ではないが背景となる疾患を書くようになっている。


その死亡診断書の直接死因に、どんな医師がどのような「(診断)根拠」で「栄養失調」を「直接死因」に書くか、が疑問なのである。
また「栄養失調」死のうち、ほとんどが、「E46 詳細不明のたんぱく質不足」に分類されていて、85〜89歳が一番多い。


 (E40-E46)
栄養失調
E42
クワシオルコル
E43 詳細不明
重度栄養失調
E46 詳細不明
栄養失調
X53 食糧不足合計
総数170111141676451746
〜14歳300303
015-019歳1--1-1
020-024歳3--3-3
025-029歳4--414
030-034歳9--9211
035-039歳21--21-0
040-044歳24--24226
045-049歳25--25429
050-054歳40-139444
055-059歳64--64468
060-064歳111-11108119
065-069歳82--82688
070-074歳98--986104
075-079歳188131843191
080-084歳255232502257
085-089歳311543023314
090-094歳28121278-281
095-099歳145-1144-145
100歳-361-35-36
不詳1--1-1



高齢者の栄養失調、「E46 詳細不明のたんぱく質不足」は「餓死」なのか?

順番は逆だが、まずは高齢者の「栄養失調」を考えてみよう。
たまに平日の10時半くらいとか、午後4時とかにスーパーに行くと、高齢の方が妙な弁当や、沢山のお菓子を買い込んでいるのを目撃することがある。
こうした方々は、バランスよく野菜や肉を食べることがないのかもしれない。それで自分たちなりに口当たりの良いものばかりを買い込んでしまって、健康を損ねてしまい、倒れて運び込まれた先の病院の医師が「これは栄養失調だなぁ」と書いてしまうのだろうか。
あるいは、歯がだめになっちゃってバランスの取れた食事ができなくなることもあるかもしれない。
高齢者といえば「脱水」「誤嚥」「感染症」「肺炎」なのだが、そうではなく「栄養失調」ということだから、食事に問題のある場合が多いのではないか。
そうすると、われわれの感覚−−−胃の中に食べ物がない−−−からすると「餓死」ではないということになる。
つまり、独居や高齢者のみの世帯において、認知症や食事を気遣う人がまわりにいなくなって、適切にバランスよく栄養を摂ることができなくなった結果、栄養失調状態になったケースが多いのではないか、それは「医学」とやらにとっては「飢餓」や「餓死」かもしれないが、食べたくても食べられない結果ではないのではないか。


他にも、冒頭の「餓死」イメージと違うかもしれない場合を挙げてみる。
高齢者のケースとして考えにくいが、「拒食症」から「栄養失調」を来たす場合もあるだろう。
腸の重篤な疾患から栄養を吸収できないで「栄養失調」ということもあるだろう。もしかして腎臓がおかしくてタンパク質不足にもなる?これらも「餓死」とはちょっと違う気がする。
胃ろうから流動栄養を流し込んでいるが、どうもちゃんと吸収されていない寝たきりの人とか、そういう人も「餓死」とは違うのではないか。


繰り返しになるが、高齢者の「栄養失調」死は深刻な問題である可能性はあるものの、その件数を「餓死」というカテゴリーにカウントして良いか、疑問であると僕は思う。


統計の問題……どんな医師が・なぜ「栄養失調」と直接死因欄に書くのか

死ぬときには心臓が止まり、呼吸が止まるのだから、「心不全」「呼吸不全」が「直接死因」だと書けなくもない。わからなければ、そう書いてもよほどのことでなければ、死亡診断書にクレームが付くことはないだろう。同じことは「栄養失調」にも言えるのではないか。
しかし、「癌」でも「老衰」でも、「心不全」「呼吸不全」でもなく「栄養失調」と「直接死因」の欄に書くケースというのは医師の側ではどういうことが考えられるのだろうか。


いつも往診(訪問診療)したりしている診療所のお医者さんが、書くのか。
担ぎ込まれた病院の入院担当の医師が書くのか。
長らく寝たきりで過ごしている施設の医師が、衰弱していった高齢者を見て書くのか。
警察に呼ばれて、自宅で倒れていた高齢者を見て検死担当の医師が書くのか(本当のところはどういう医師がやってきて、何を調べて書くのかは、僕は知らない)。初診の医師が遺体を解剖もせず、見ただけで「栄養失調」と診断できるだろうか。(解剖したらわかるの?) 検死の医師が剖検なしで「栄養失調」と書くとしたら、それは「餓死」かどうかはわからないのではないか。


「食糧の不足」というのは「外的」な死因だから、それを書くのはそのことが明白であるからだろう。
では「栄養失調」と書くのはどんな場合なのだろうか。
僕の疑問は簡単に言うと、「いいかげんなんじゃないの?」ということである。


最近ずっと食が細かった。それで衰弱して亡くなった。
だが例えば「老衰」では保険金がおりない、「心不全」「呼吸不全」では、何かありきたりか、持病との関係で保険がおりない(「高血圧」「狭心症」「肺気腫」などの持病があって、もうそれが死因では保険金が給付されないとか)、それで家族に請われて、当らずとも遠からず「栄養失調」と書いちゃう。
そんなことがけっこうあるのではないか。
栄養失調死という診断(検案)は確かなものか、疑問である。もちろん、このへんの事情は僕は全くしらないので、以上のことは空想である。

栄養失調=餓死?

だから、国立国会図書館の人が考えたとしても、「栄養失調」で亡くなる、というのは「食べたくても食べ物がなくて胃の中が何日も空っぽ」という「餓死」の人はうんと少ないのじゃあないかなぁ。どうなのかなぁ、と思う。