▼格差社会における高齢世帯の統計上の位置など

年齢階層別に見た経済的格差の動向

ニッセイ基礎研究所 REPORT 2006.6
経済調査部門 石川達哉 氏
http://www.nli-research.co.jp/doc/eco0606a.pdf

要約

所得格差
  1. もともと単身世帯の所得はそれ以外の世帯の所得に比して低いから、単身世帯が増えれば世帯全体の格差は拡がる。
  2. 総務省「全国消費実態調査」によれば、年齢が高いほど、所得格差は大きい。
  3. 70歳以上の世帯においては89年以降、所得格差は縮小している。その原因は、有業世帯の減少、高齢者のみ世帯の減少などがあるかもしれない。
  4. 30代未満は格差拡大が続いている。これは、雇用・賃金関係が原因である。
  5. 30歳代は格差拡大傾向にある。
  6. 年代別の所得格差とその推移は厚生労働省「国民生活基礎調査」でも確認できる。
資産格差
  1. 流動性の高い資産がゼロの近ければ、所得が減少したときに生活に窮する。
  2. 金融広報中央委員会「家計の金融資産に関する世論調査」によれば、世帯全体のジニ係数は長期的に上昇傾向。年代別に見ても同様である。とくに2000年代に入り全ての年齢階層で上昇している。
  3. 総務省「全国消費実態調査」家計資産編でみると、金融資産の格差は20代後半から縮小し始め30代後半に最も小さくなる。住宅・土地を含む総資産は50歳代以降に格差が小さくなる。
  4. 資産格差、金融格差は遺産相続や非金融資産の購入などによって変動するが、一生遺産相続とは無縁の世帯と遺産相続を受ける世帯とでは超えがたい格差が存在することが想像できる。
  5. 金融広報中央委員会「家計の金融資産に関する世論調査」によれば、現金以外の金融資産を全く保有していない世帯の割合が2000年代以降に急上昇を続けており、2005年には全世帯の20%、20歳代では40%を超える。
  6. 冒頭述べたように、低所得の世帯が金融資産を保有していなければ、失業・疾病などのショックに対して非常に脆弱である。若年世帯で格差が拡がっているのは、労働意欲や「努力」の多寡が原因ではない。

石川氏は全体の格差の拡大は、もともと格差の大きい高齢世帯の増加が原因であるとするが、一方、だからといって、貧困の問題や格差の固定・拡大の問題がないとはいえない、としている。

なお、石川氏は「高齢者世帯の多様さと統計上の所得格差」エコノミストの眼 2006年08月21日号
http://www.nli-research.co.jp/stp/nnet/nn060821.html
においても統計上の所得格差と高齢者世帯との関連に触れつつ、最後に高齢者世帯の実態把握をすすめることが税制や社会保障制度のあり方を考える上で重要であるとしている。