▼フリーターやニートはオトナのせいか知らんけど怠け者──中教審

「次代を担う自立した青少年の育成に向けて」

Benesse教育情報サイト「フリーターやニートの増加は大人にも責任 中教審が指摘」斎藤剛史氏、07/02/26
http://benesse.jp/blog/20070226/p2.html

文部科学省中央教育審議会中教審)はこのほど、青少年に社会的自立を促すための方策などを提言した答申「次代を担う自立した青少年の育成に向けて(PDF)」を伊吹文明文科相に提出しました。
 答申は、フリーターやニートの増加、学習意欲の低下、社会的マナーなど基本的生活習慣の乱れなどに対して、若者や子どもだけでなく大人の側の責任を指摘し、家庭、地域社会、企業などの意識改革を求めています。

読んでなかったので、便利に拝読。
詳細は当該サイトをご覧あれ。

フリーターやニートの増加の責任は?

で、フリーターやニートについて答申そのものはどう述べているのか、PDFファイルを検索してみると、1箇所だけであった。

【意欲を持てない青少年の増加への懸念】
○ しかしながら近年,学力調査の国際比較(図1,2)やフリーター・ニート(注3)数の推移を通じ,学習意欲や就労・勤労意欲の低い青少年が増えつつあるのではないかという懸念が生じている。また,学習や労働といった具体的な対象への意欲の減退だけでなく,成長の糧となる様々な試行錯誤に取り組もうとする意欲そのものが減退しているのではないかとも懸念されている
 その背景には,青少年の自己肯定感の低さや,「大人になりたくない」という現状への安住志向,慢性的な疲労感やあきらめ,集中力や耐性の欠如が見られるという指摘もある。
加えて,青少年自身の意識に,将来に備えるよりも現在の生活を楽しみたいという傾向や,負担感や不安感,自信のなさから大人になりたいと思わない傾向が見られることを示す調査もある(図3〜6)。
 文部科学省が平成17年に全国各地の学校で実施したスクールミーティング(注4)においては,保護者や教職員から,外で遊ばなくなりテレビやゲームの時間が長いこと,睡眠時間が少ないこと,実体験が少ないことなどの青少年の生活の実態が指摘された。また,我慢できずにすぐにあきらめる傾向があること,主体性がなく受け身であること,学習意欲が低下していること,基本的な生活習慣が身に付いていないこと,基礎学力・コミュニケーション能力・体力が低下していることなどが,現在の青少年の問題点として挙げられた。
○ 現代の青少年は,「欧米に追い付き追い越せ」といったかつての風潮に代表される,より良い生活のためにはある目標に向かって絶えざる努力を続けなければならないという意識を持たなくてもある程度快適な生活が可能な豊かな社会に生きている。意欲が減退していると懸念される青少年の傾向は,こうした現実生活を通して青少年が抱く,人生に対する安易な認識の現れとみることも可能かもしれない。しかし一方でそれは,青少年が大人になることへの嫌悪感や負担感,あるいは不安を抱き,変化が激しく不確定な未来から逃避しようとしていることの現れとも考えられる

ちょっと待って。そういう意見もあるという話ですか?

07/03/12 追記
青少年の意欲を高め、心と体の相伴った成長を促す方策について(中間まとめ)というのが、06/09/28に中教審から出ていて、すでにそっくり同じ指摘がある。

答申は続ける。

【意欲を持てる青少年と持てない青少年の二分化への懸念】
○ 青少年の意欲に関しては,意欲を持てる青少年と持てない青少年の二分化が進んでいるという実態がある。
 具体的には,青少年の間に意欲的に運動する者としない者の二分化が近年目立っており,それらが体力の差として明らかとなっていること(図7)や,学校外で長時間学習する者と全くしない者に二分化する傾向が見られること(図8),自然体験の多い青少年は生活体験や家事にも積極的に取り組んでいるが,逆に何事にも取り組むことのない青少年は漫然と過ごしていることなどが明らかになっている。

また自然体験ですか! 運動部に所属しているものの体力が所属していないものの体力より勝っているのは当然だろうが。
答申はそこで青少年を放置できないという。それは彼らの健康や彼ら自身の将来のためという教育的な観点ではなく、社会問題対策的視点である。続ける。

2.青少年の自立への意欲に対する社会的期待と大人の責任
【社会から期待されている青少年の「自立への意欲」】

○ 我々が何に対して意欲を持つかということについては,本来,個人の生活や人生の各場面において自由な意志の下に選択するものである。

 ただし,我々は……社会的存在でもある。……青少年が社会で一定の役割を担おうという意欲を持ち,社会的存在へと成長することが,社会から期待されていると言える。

○ ここで我々は,青少年が社会から期待されている役割を果たすために必要とされる意欲を「自立への意欲」と称したい。
【青少年の自立への意欲に対する大人の責任】
○ 青少年が自立への意欲を社会的に期待される方向に向けられなかったり,あるいは現状に安住して漫然として何も行動せず,自立に向けて成長するのを避けたりする状態を,「現代の世界的潮流」や「個人の選択の自由の問題」であるとする意見もあるが,このような状態は放置されてよいものではない
 青少年の成長には,家庭環境,学校や地域の状況,雇用環境,社会の風潮など,社会を構成する大人側の論理,価値観や行動の在り様等が深くかかわっている。にもかかわらず,最近の社会においては利益至上主義や企業モラルの欠如による相次ぐ企業の不祥事や,高齢者等をねらった詐欺事件の横行などに見られるように,大人の在り方に問題があると言わざるを得ない状況にある。こうしたことが,大人になることへの嫌悪感や不安感といった青少年の反応・感じ方に大きな影響を及ぼしていると考えられることを踏まえると,我々大人には,自立への意欲に課題がある青少年に対して,成長する過程で何らかの困難に直面しているととらえ,手を差し伸べるべき責務があると考える。

つまり、青年たちは大人になりたくないからニートやフリーターになっているのだと。
或いは自立に意欲はあるが、障害があるのかもしれない、と。企業不祥事と高齢者を狙った詐欺とを同列におくのもどうか。
青年を叩きたくて仕方がない、という感じがするが先に進む。

○……すべての青少年を「社会の子」としてとらえ,その成長を社会全体で支えていくべきである。

○ その際,我々大人は,青少年の自立への意欲を高めるためにこれまで何をしてきたのか,あるいはしてこなかったのか,それぞれの立場でいま一度自省する必要がある。
 すなわち,青少年への自立への意欲という社会的期待に対して,家庭でこれにこたえるような子育てを行ってきたのか,学校で児童生徒に自立を目指す教育を行ってきたのか,地域社会は青少年の成長を促し支えるような教育機能を果たしてきたのか。産業界において,若年労働者やこれから就職しようとする青年に職業生活への夢や希望を抱かせるような雇用環境を提供してきたのか,経済活動が青少年の消費生活等に多大な影響を与えていることを忘れたり,彼らの健全な成長への配慮を怠ったりしたことはなかったのか。そして何よりも,青少年の自立をめぐる課題の責任を他者に転嫁していないのか,これらのことを厳しく問い直すべきである。

ここで、一応「雇用環境」に言及するのだが、もうニート・フリーターに言及している箇所はない。また他の箇所で「雇用」に関して言及している場合も「ワーク・ライフ・バランス」がほとんどであり、青年の適正な処遇や職業人育成については(「雇用」という語の前後では)言及されていない。
「不安定(な雇用)」は注で1箇所、「非正規」という用語は用いられていない。
結局、ニートやフリーター(それぞれについて単純に雇用環境のみに原因を求めることはできないにしても)は、意欲や体力に欠けた者の一部という捉え方を越えない。というか、それ以上分析も言及もされていない。足れり、ということだろうか。
そして、答申は「ダメダメ青少年」の類型的分類に進んでいく。

1.青少年の意欲と行動の様相
【意欲に欠ける青少年の様相とその原因の分類】

(1)基礎的な体力の低下や不足
 ア. 基礎的な体力が十分に培われていないため,意欲を持てなかったり思考や行動に集中できなかったりして,持続力もない状態
(2)青少年の価値観等と社会的期待との相違
 イ. 将来に向けて学習したり努力したりすることに希望や価値を見いだせないため,学習や努力に対する意欲を持てない状態
 ウ. 意欲や行動が社会のルールやマナーを逸脱しているため,その意欲や行動が評価されない状態
 エ. 意欲の対象が自己完結しているなど,他者とのかかわりや社会とのかかわりの中で達しようとする目標を持てないため,その意欲や行動が評価されない状態
(3)意欲を行動に移す段階でのつまずき
 オ. 意欲を持っているが,行動することへの負担感が大きいなどの理由により,意欲を実現するための行動に移せず,行動する前にあきらめている状態
 カ. 意欲を持っており行動しようとする,あるいは既に行動し始めているが,適切な手段・方法が分からずに迷っている状態
 キ. 意欲を持っており既に行動したが,失敗したこと等による徒労感,絶望感から抜け出せず,改めて挑戦する意欲を持って行動できない状態

以下は、目次の写しを読まれたい。私も今現在全部は読んではいない。


ここまで見た限り、ベネッセ教育サイトが立てた見出し「フリーターやニートの増加は大人にも責任」の、答申の実際の内実は、大人の自己批判にもなっていないし、青年たちの未来を拓く基礎にも何にもなってはいない。
青年たちに対して、意欲がないから意欲を出せ、体力がないから体力をつけろ、体験がないから体験しろというようなフリーター観、ニート観、青年観では善意ではあっても青年たちの期待には応えられないように思う。
決定的に欠けているのは、これまでの成育環境・教育環境から将来にわたって青年たちを拘束している、或いは青年たちを排除している貧困や貧弱な制度、社会の仕組みについての批判的な視点である。

ニート、フリーターに関する暴言

また驚くのは、ニートやフリーターに関する先行研究などにはほとんど言及していないことだ(精読する意欲がわかないので、わからないが、全く言及していないのかも)。単に「フリーター・ニート数の推移」をだけ見て(本文で「ニート」「フリーター」が出てくるのは一箇所だけ)「学習意欲や就労・勤労意欲の低い青少年が増えつつあるのではないか」というのは、今や「暴言」と言ってよい文章ではなかろうか。



だから、中教審が青年に対する社会やオトナの責任をいくら強調しても、上のような文章であれば、「青年は怠け者になった、意欲も体力もない」という青年観に留まってしまうのだろう。そこにしか「自立の困難」はなさそうである。
・・・ま、全部読んだら、・・・もう一度同じことを書くかもしれません。

目次の写し


次代を担う自立した青少年の育成に向けて
〜青少年の意欲を高め,心と体の相伴った成長を促す方策について〜
(答申)
目次
はじめに
第1章 今なぜ,青少年の意欲を高め,心と体の相伴った成長を促す必要があるのか
1.意欲を持てない青少年の増加への懸念

 【意欲を持って自立への素養や力量を培う青少年期】
 【意欲を持てない青少年の増加への懸念】
 【意欲を持てる青少年と持てない青少年の二分化への懸念】
 【すべての青少年が意欲的な生活を送るために】
2.青少年の自立への意欲に対する社会的期待と大人の責任
 【社会から期待されている青少年の「自立への意欲」】
 【青少年の自立への意欲に対する大人の責任】
3.青少年の成長過程全体にわたって心と体の相伴った成長を促す意義
 【身体,心情と知性の相互作用】
 【成長過程全体にわたって調和の取れた成長】
 【様々な体験活動の意義のとらえ直し】
第2章 青少年の意欲をめぐる現状と課題
1.青少年の意欲と行動の様相

 【意欲に欠ける青少年の様相とその原因の分類】
 【状態の的確な把握と各状態に対応した手当て】
 【自己を客観視できる力の育成】
(1)基礎的な体力の低下や不足
 【正しい生活習慣,運動習慣の下での充足感のある生活】
(2)青少年の価値観等と社会的期待の相違
 【納得のいく豊かな人生のための努力と向上心】
 【実社会とのかかわりを通じた価値観や判断基準の体得】
(3)意欲を行動に移す段階でのつまずき
 【目的達成に必要な手段方法の体験を通じた学習】
 【身近なモデルの存在】
2.データが示す青少年の生活実態等の現状と課題
(1)生活の夜型化,朝食欠食などの基本的生活習慣の乱れ
(2)希薄な対人関係
 ①子どもへの保護者の関与の度合いの低さ
 ②地域の大人の青少年へのかかわりの少なさ
 ③仲間と交流する体験の少なさ
(3)直接体験の少なさ
 ①スポーツ等の体を動かす体験の少なさ
 ②自然体験の少なさ
(4)情報メディアの急速な普及に伴う問題
第3章 青少年の意欲を高め,心と体の相伴った成長を促すために 〜重視すべき視点と方策〜
1.家庭で青少年の自立への意欲の基盤を培おう

視点
○家庭の役割を強く自覚し,家族全員で子どもに積極的にかかわる
○学校や企業,地域社会が家庭での自立への基盤づくりを支援する
方策
◎求められる基本的生活習慣や基礎的な体力の重要性について,実践的な調査研究等を通じて啓発する
◎家庭での基盤づくりを進める国民運動を展開し,地域での取組を支援する
2.すべての青少年の生活に体験活動を根付かせ,体験を通じた試行錯誤切磋琢磨を見守り支えよう
視点
○多様な体験活動の機会を提供し,体験活動をすべての青少年の生活に根付かせる
○体験を通じた青少年の試行錯誤切磋琢磨を大人が見守り支援する
方策
◎青少年の生活圏内に多様な体験を提供する場や機会をつくる
◎青少年教育施設等を中核として,教育効果の高い体験活動を計画的に提供する
3.青少年が社会との関係の中で自己実現を図れるよう,地域の大人が導こう
視点
○社会との関係への興味関心を育て,社会との関係の中での自己実現を導く
○地域の大人が青少年の育成に積極的にかかわっていくという価値観を醸成する
方策
◎社会との関係の中で自己実現を図った大人の生き方から学ぶ機会を提供する
◎青少年の努力や社会貢献を積極的に評価する
◎地域の大人が地域の青少年の成長に継続してかかわることのできる場や機会を広げ,その連携を進める
4.青少年一人ひとりに寄り添い,その成長を支援しよう
視点
○ガイダンスの発想に立ち,青少年一人ひとりの成長を支援する
方策
◎ガイダンスの発想に立って青少年を支援できるよう,指導者の意識の涵養と指導力育成に努める
◎学校における教育相談体制の整備や関係機関が連携したサポート体制の充実などにより,一人ひとりの成長をきめ細やかに支援する
5.情報メディアの急速な普及に伴う課題へ大人の責任として対応しよう
視点
○情報メディアを通じて社会のルールやマナー等を学び社会参画を図れるようにする
○青少年への悪影響を予防する観点から情報メディア環境を見直す
方策
◎青少年の健全育成に資するコンテンツづくりを促進する
◎コンテンツの作成発信者と受信者が共により良い情報メディア環境づくりに貢献できる仕組みを整える
◎携帯電話等の情報メディアを悪用した犯罪等に巻き込まれないよう青少年一人ひとりに届くメッセージを送る


おわりに