▼青少年施設と社会性の涵養

http://nyc.niye.go.jp/youth/14tetop.htm
「青少年施設職員の手引−改訂版−」2003年3月、独立行政法人国立オリンピック記念青少年総合センター

公開されている「手引き」にどのような青少年像が描かれているか。抜粋

第1章 現代の青少年とその課題

1. 青少年体験活動研究会「子どもの体験活動等に関するアンケート調査」, 1999(平成11)年3月
2. 子どもの体験活動研究会「子どもの体験活動等に関する国際比較調査」, 2000(平成12)年3月
に基づいてまとめてみると、

(1)希薄な生活体験・自然体験
(2)他者とのコミュニケーション・交流の不足……しつけ・モラル、他者との関わりが相対的に希薄だという調査結果
(3)豊かな情報機器に囲まれた青少年

  • これら調査の結果を概観してみると,日本の子どもは,他の4か国に比べて,友人や家族との交流や関係が希薄で,家庭でのお手伝いが最も少なく,テレビやビデオの視聴時間が長く,またテレビゲームやコンピュータゲームに費やす時間も長いことなどがわかった。
  • 子どもの成長はぐくむために必要な以下のような機会が失われている
    • ①活発な身体活動の機会,
    • ②他者とのコミュニケーションの機会,
    • ③自然や社会での直接体験の機会,
    • ④創造,工夫,苦労の機会

 こうした機会は,少子化核家族化,都市化,情報化など,急激に変化した現在の社会の中で,残念ながら今日では,日常では得がたいものとなってしまった。
(平井吉直氏)

これは調査結果の紹介にすぎない。

第2章 青少年教育施設

これが、次章になると、トーンが変わる。それは章立てがそうなのだから仕方がないかもしれないが。

1 青少年教育施設の役割
(1)社会性の理解

 最近の青少年の人間形成をめぐる問題点は,社会性の未熟に端を発しているものが多い。

《参考》1 社会性とは
 社会性とは,所属する社会での生活を営むために必要な社会的な能力,技能,態度などの総称で,次のようなもので構成される。

  1. 人間関係能力=例・コミュニケーション手段としての言語,自己抑制力,思いやり,連帯・協同・競争,報恩
  2. 生活慣行能力=例・挨拶その他礼儀・作法・エチケット・マナー,公共の精神生活様式,社会的・文化的な慣習。
  3. 社会的規範能力=例・遵法の精神や道徳の法則,社会的秩序の維持・形成。
  4. 社会的役割能力=例・社会の構成員としての地位の獲得,社会的地位に伴う役割の遂行,アイデンティティの確立

 社会性は先天的でなく,学習で身につくもので,経験知に近い。また,社会性の学習は模倣から出発するが,「しつけ」のような反復訓練とか,五感を用いる体験活動が効果的で,体験活動が引き起こす偶発的学習の効用も大きい。

 しかし,最近の急激な社会の変化は青少年の社会性習得をゆがめている。だから,マナーを知らない青少年があふれ,対人関係が不得手で深い友人関係を避ける若者が増えた。他方,夢も無く,自己抑止力も不十分で,欲望のままに走る青少年ばかりだといわれるようになった。

(2)課題は社会性の学習

 青少年教育最大の課題は社会性の育成である

  1. 経験知的な社会性の学習では,〔学校の授業とは〕別の工夫が求められる。
  2. 社会性習得の一つが模倣だとすれば,多様なモデルが存在する実社会と接触する機会を増やし,一方では適切なモデルを準備する。例えば,就労体験やボランティア活動,あるいは施設での活動などがこれで,同種のものでは友人=集団体験の効用も大きい。
  3. 経験知は,しつけのように反復訓練によって身体に覚えさせるとか,ワザは盗んで学べというように主体的な学習態度がものをいうが,社会性の学習も同じような手法が求められる。
  4. D,オズボーンとT,ゲープラーは,聞いたことの10%,見たことの20%,議論したことの40%,行ったことの90%は覚えているという。五感を用いての体験学習は学習効果が高いわけである。さらには体験は予期しなかった偶発的学習を触発し,付加的効果を創出するので,社会性の学習には好適な手法だといえる。

(3)社会性の訓練

 宿泊研修機能が重視されるのは,社会性の啓培が青少年の人間つくりでは喫緊の課題であり,この課題の解決に最適なのが宿泊研修だからである。ちなみに仲間づくりや研修条件の地ならしには,一緒に泊る・食事する・語り合う・学ぶ・働く・遊ぶ・風呂に入る,をプログラム化しているが,宿泊研修施設はこの機能を盛り込んだものである。それゆえに,青年の家や少年自然の家は目的に「団体宿泊訓練」を掲げ,具体の教育目標は,規律,協同,友愛,奉仕である。なお,ここでの「訓練」は相手の意思を無視して強制的に型へ押し込む趣意ではない。教師が主役になる「教授」でもない。一人一人に働きかけて,相手の自主的判断と社会的責任感で社会的特性=社会性=を習慣づける手法が「訓練」で,反復で定着率が高まる性格がある。

 社会性の啓培には体験が効果的だが,教育的に編成し易い体験としては,

i自然との接触体験
ii勤労体験
iii奉仕体験
iv集団体験
v自己充足体験
vi生活体
がある。施設での活動プログラムは,設置目的の達成を目指して,これらの体験活動を編成したものである。

(4)施設の役割

 施設は,社会性の啓培が最大の課題であるので,青年の家や少年自然の家が代表する宿泊研修施設が主役になる。施設は学校との関係づけが身近な責務なので,学校は新しく導入されたボランティア活動など社会奉仕体験活動や総合的な学習の時間を手はじめにして,学社連携・融合を積極的に展開する努力が望まれている。(伊藤 俊夫氏)

体験の神秘化の根源は?


青少年のさまざまな体験が希薄になっているのを野外教育・施設教育が補うというのは、良いことだはと思う。もちろん、「手引き」でこまごま言及されているような教育的な配慮は前提である。
それにしても、第2章冒頭の「社会性」の例は私の考える「社会性」とは異質なものが混じっているし、それを体験教育でなんとかするとかというのは、私には体験の神秘化ではないかと思える。
こうした「体験」の神秘化に基づく「体験教育」の万能化の根源はどこに・いつごろあるのだろうか。