▼情動の科学的解明と教育等への応用に関する検討会報告書

昨日の記事末尾で紹介した、標記「情動の科学的解明と教育等への応用に関する検討会報告書」は、「子どもの体験活動等に関するアンケート調査の実施結果」という文言で検索してたどり着いた報告書の一つである。
非常に抑制的・学術的なトーンで、またそれゆえ読みやすいものであった。
関心のおありの方は直接に読まれたい。

  • さまざまな体験が青少年の発達上好ましいことは、種々の調査結果の示すところであるが、状況証拠に過ぎない。
  • 児童虐待は世代伝達される
  • 小学校入学までの人間関係が非常に重要だと考えられる


1 子どもの情動等に関して、これまでの研究成果から、以下のことが分かっている:

  1. 子どもの対人関係能力や社会的適応能力の育成のためには適切な『愛着』形成が重要であること、
  2. 子どものこころの健全な発達のためには基本的生活リズムの獲得や食育が重要であること、
  3. 子どもが安定した自己を形成するには、他者の存在が重要であり、特に保護者の役割が重要であること、
  4. 情動は、生まれてから5歳くらいまでにその原型が形成されると考えられるため、子どもの情動の健全な発達のためには乳幼児教育が重要であること、
  5. 成人脳にも高い可塑性を示す領域があり、この点を意識した生涯学習が重要であること、
  6. 前頭連合野大脳辺縁系の機能が子ども達の健やかな発達に重要な機能を発揮しており、前頭連合野の感受性期(臨界期)(用語解説参照)は、シナプス増減の推移から推論すると8歳くらいがピークで20歳くらいまで続くと思われ、その時期に、社会関係の正しい教育と学習が大切であること、など。

2 今後は、課題解決のために以下のような取組みが必要である。

  1. 子どもの情動等に関する諸課題について、その解決に向けた研究が必要であること、
  2. 学際的連携等をコーディネートする機関の在り方に関する検討が必要であること、
  3. 研究成果のスクリーニングを行う仕組みづくりに関する検討が必要であること、
  4. 研究と教育との連携の推進(双方向的連携の仕組み作り)に関する検討が必要であること、
  5. 子どもの発達を早期から前方視的、縦断的にみていく体制作りが必要であること、
  6. 子どものこころの発達の支援には、総合的なシステム構築や各機関の連携・協力体制の構築が必要であること、
  7. 高い科学性を備えた専門的人材の育成が必要であること、など。

感想:

  • 報告に従えば子育てへの厚い・そして慎重な支援体制こそが望まれる。教育再生会議のように「家庭の責任」を声高に叫ぶのは的外れ
  • 青少年にさまざまな実体験をさせることが好ましいということと、教育再生会議の「社会奉仕活動の義務化」の期待するところとは、大きな落差があるのではないか
  • 再生会議や中教審などで称揚されている「奉仕活動」や「自然体験」は、発達的知見を十分に踏まえているという印象ではなく、これらの体験・活動に関する調査結果を利用して「発達」とは別の「規範」「畏敬の念」「規律」を植えつけることを目的としているという印象が強い。この印象の裏を取れるだろうか、取り越し苦労だろうか?
  • 先に体験の賛美や、青少年の「モラル低下に対して何かする」ではない、丁寧な検討の姿勢があって好感が持てる。