▼資料・教育再生会議「奉仕義務化」論議についての感想と抜書き

公開されている教育再生会議の「議事要旨」「議事録」「配布資料」などに、一通り画面で目を通してみた。印刷物にしなかったので、ナナメ読み。
しかし、これらの議事要旨・議事録は教育を深めるという点ではほとんど無意味である。委員たちの観念の一方的吐露ばかりで、現実の教育現場で児童生徒がどのような状況なのか、教育学や発達心理学の見地からどうなのか、という議論は議事録上「皆無」と言ってよいほどだと私は思う。発言はあったかもしれない。しかし議論にはなっていないのである。
だから、前にも述べたように、この会議を招集した時点で全て「想定範囲内」の会議であると言わざるを得ない。想定外のことを言うような委員は招集していないのである。
感想としてはあまり変化なし。今まで書いたことのくり返しである。

何に奉仕するのか

「奉仕」という言葉から連想されるのは「滅私奉公」である。次は企業が事業(営利活動)を通じて技術やサービスを社会に提供し、もって社会に奉仕するというようなことである。
学校における「奉仕活動」は例えば、商業科の生徒がお店を開いたり、農業科の生徒が農産物を販売したり・配布したりということではなさそうだ。
そうではなく、河川のゴミを拾ったり、老人など弱者の施設で老人の世話(職員の邪魔)をしたり、学校のトイレを掃除して見せたり、ということのようである。具体的なことは考えられておらず、ただ「奉仕」をさせたい、させればよいという体験崇拝である。

奉仕活動の教育的な意義

私は学校が児童生徒の自主性を引き出しながら、社会認識や身体的な発達段階に見合った奉仕「的」活動を組織すること自体を敵視・危険視・蔑視するものではない。教育の名に値する取り組みの枠組みでなされるなら、それなりの効果をもたらすであろうし、予め「もたらさないのだ」と断ずる材料は持ち合わせていない。
お年寄りの足を洗ってあげたり、手を揉んであげたりして「ありがとう」と言われる。汚かった公園がきれいになって幼児が安心して遊べるようになる清掃をする。「うまくやれば」これは楽しくもあり生徒の誇りにもなろう。地域社会への具体的な視野の広がりを助けることにもなろう。
しかし、こうした活動は「社会奉仕活動」そのものではなく、「子どもにやらせる」「奉仕『的』な活動」に過ぎないのである。
言い換えると、教育が目的であって奉仕は手段なのである。だから奉仕的活動そのものが失敗に終わっても教育目標が達成されれば良いのであって、教育の側が奉仕活動の失敗をも織り込んでいること、失敗の過程であっても児童生徒の成長に責任を持つというのが教育である。

義務化することでゆがむ活動

問題は、具体的な検討もせず、ひたすらボランティアや奉仕活動をさせれば、そこに社会との接点があり、「したがって」「規範意識」が身につく、という思い込み・体験崇拝があることと、これを義務化することである。
こうして義務化されるとどうなるか。
奉仕活動が教育目標から必然的に導出されたものではなく、教育の過程の外から挿入されたものであるから、教育と奉仕とが内的紐帯なしに・互いに外的に依存しあうことになる。
社会奉仕活動をすることが目的となり、教育過程は義務化された社会奉仕活動のためのアリバイとなる。また社会奉仕活動は教育を外的に成立させるためのアリバイとなる。
言い換えると、教育は奉仕活動抜きには「教育」として成立しないことにるので実施される。実施される奉仕活動の目的は「奉仕」ではなく「教育の成立」となる。
ありていに言えば、やれと言われて、やらねばならないからやる。それ以上ではない。それ以上の議論は体験崇拝以外のことは教育再生会議の議事録にはないはずである。
結局、奉仕活動が問われるのは児童生徒ではなく、それを組織する学校・教員となる。ということは、前にも述べたが、奉仕活動の対象は学校・教員ということになる。
こうして義務化された奉仕活動は学校・教師のために迂回奉仕する「苦役」と変質することが大いに危惧される。


もちろん、奉仕活動の義務化が直接に教育活動としての「奉仕的活動」を排除するものではない。しかし、上述の危惧は排除されるどころか増大すると言わねばならぬ。

教育再生会議における「奉仕活動」

教育再生会議」の公表されているものを見ていくことにする。

★本会議

第1回議事録 日時:平成1 8 年1 0 月1 8 日
安倍総理 ……第二に、規範意識や情操を身に付けた、「美しい人づくり」のための方策を御議論いただきたいと考えております。体験活動や奉仕活動を行ったり、読書に親しんだりすることにより、人間性や社会性を磨くことが必要であると考えております。基本的な生活習慣を身に付け、学校の規律を確立することが求められております。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouiku/dai1/1gijiroku.pdf

★第二分科会
資料2 第二分科会での検討課題(これまでの意見等の整理)[PDF]

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouiku/2bunka/dai2/siryou2.pdf
奉仕の精神(勤労意識の醸成、体験活動や奉仕活動、読書により、人間性、社会性を磨くことが必要

資料3 「子どもの「心の成長」のために」(議論のたたき台)[PDF]

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouiku/2bunka/dai2/siryou3.pdf
放課後子どもプランの活動を活用して、チームワークの大切さや社会に奉仕することの重要性を体感させてはどうか

第3回 規範意識・家族・地域教育再生分科会(第2分科会)議事要旨

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouiku/2bunka/dai3/3gijiyoushi.pdf
日 時:平成18年12月8日
(池田座長代理)
ボランティア活動は自主的なもの、奉仕活動はある程度強制的なものも含まれる。検討課題とさせていただければと思う。
(門川委員)
趣旨としては理解でき賛成。「規律を確保するために社会奉仕」とあるが、「心を育み、規律を確保するため」とかにした方がいい。

第3回  平成18年12月 8日 議事録

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouiku/2bunka/dai3/3gijiroku.pdf
○ 池田主査 「2 自然体験活動、ボランティア活動等を通じて規範意識を育てる」というところでありますけれども、御承知のように、国民会議のときから奉仕活動というものがボランティア活動とは一線を画して提言されておりますが、これはなかなか実現が難しい。いろいろ御議論もあろうかと思いますが、今後、それを少し深めさせていただくということで、奉仕活動とボランティア活動を並列させていただいて、ここに書き込ませていただいて、また残されました期間にこの辺のことを詰めさせていただければと思います。
ボランティア活動というのは、言葉のとおり、自主的なものでありますけれども、奉仕活動というのは、ある程度、半強制的なものも含まれるわけでありまして、教育というのはやはり、若干、そういうものも必要ではないかという御意見もいろいろいただいておりますので、今後、検討させていただければと思います。
……
○ 門川委員 趣旨としては、ここに書いてある4 のところは理解できて賛成なんですけれども、4 の② の3 行目に「違反を繰り返す子供に対しては、規律を確保するため、社会奉仕」とあります。規律を確保するために社会奉仕ではなく、「子供に対しては、心を育み、規律を確保するため」とかにしたらいいと思うんです。
○ 葛西委員 このまま書くと、意味がよくわからないですね。

一億総奉仕活動による道徳教育
第3回  平成18年12月 8日 議事録

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouiku/2bunka/dai3/3gijiroku.pdf
○ 門川委員 京都市の道徳教育振興市民会議のことが入っているんですけれども、河合隼雄先生に座長として幅広い取組を始めていただいたんですが、3 年間の議論、2 万人を超えるアンケートへの意見を集約して、「しなやかな道徳教育」として提言をまとめていただきました。 奉仕体験活動というのは親も地域も一緒に子供に体験させなければいけない。だから、考える道徳と、体験する道徳と、教え込む道徳と、さらに親が生きざまを示さなければいけない部分を3年間の議論と現場の実践に基づいてきちっと整理しているわけなんです。

★第3分科会
第2回 教育再生分科会 議事要旨(第3分科会)日 時:平成18年12月9日(土)9:00〜11:00

(池田座長代理)
規範意識も社会と接点を持つことから醸成されてくる、そういう意味で奉仕活動を再生会議のメインにおいていただけるとありがたい。
(川勝主査)
自発的なボランティアと奉仕活動を使い分けている。
(池田座長代理)
御議論はあろうかと思うが、これについては義務化というのが必要ではないかと思う。

(品川委員)
奉仕活動は、何歳から何歳の間で何ヶ月行う等期間に幅を持たせて弾力的に行うことができるようにすればいいのではないか。ボランティアとは違い、強制力のあるものが奉仕活動など、定義をはっきりさせる必要もある。奉仕活動は規範意識を育てるのに大きく貢献するといわれている。またアメリカ等徴兵制のある国はそこで規範意識や自国民という意識が高まるとの意見もある。奉仕活動の意味は多角的に検討されてもいいのではないか。

(中嶋副主査)
奉仕活動は池田さんのおっしゃっているようなことを取り入れることが正に教育再生になる。〔この会議の議事要旨のこの発言までに、池田座長が発言した「奉仕活動」〕

(川勝主査)
奉仕活動、これはボランティアとの比較においてボランティアは自発的なものだが、社会との接点、規範意識を高めるために必要なものであるという座長代理の話もあったので検討課題としたい。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouiku/3bunka/dai2/2gijiyoushi.pdf

第2回教育再生分科会議事録
○品川委員 ……奉仕活動について検討するのであれば、何歳から何歳の間に何カ月間行うというように、たとえば期間に幅を持たせるなど弾力的に行えるようなシステムも、検討してもいいのではないでしょうか。その際、ボランティアと奉仕活動の違いを定義づける必要もあるでしょう。ボランティアとは異なり、強制力のあるものが奉仕活動になるわけですよね。その意味を明確にすると申しますか、なんのためになぜやるのかはっきりさせたほうがいいと思っております。いきなり奉仕活動といいますと違和感を覚える人もいらっしゃるでしょうし、それはそれで当然のようにも考えます。一方で、奉仕活動は規範意識を育てるのに大きく貢献するとも言われています。規範意識や自国民であるという意識を育てるのに、たとえばアメリカや韓国のように軍隊があるところはそこでそういった意識が高まるという意見もございますよね。アメリカには予備軍がありますし韓国には徴兵制がありますし、そういった場で意識が変わるということは否定できないと思いますけれども、日本にはそういった場がございません。ですので、規範意識を高める手段の一つとして奉仕活動を行う意味を多角的に検討してみてもいいのではないかと考えます。
○中嶋副主査 大分いろいろな議論が出ましたのですけれども、さっきの奉仕活動については、池田さんがおっしゃったようなことがうまく取り入れることがまさに教育再生になる
○川勝主査 ……奉仕活動です。ボランティアは自発的なもの。奉仕活動は社会との接点をもち、規範意識を高めるために義務化が必要であるという、座長代理のお話もございましたので、これも今後検討させていただきたい。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouiku/3bunka/dai2/2gijiroku.pdf

だいたい、こんな程度にすぎない。議事要旨は議事録をいい加減にまとめたもの。
重大な見落としがあればご指摘賜りたい。