▼現行の学習指導要領で公徳心・公共心や家庭の大切さ、社会奉仕はどのように扱われているのか

教育再生会議の文言を拾う前に、いったい現在の学習指導要領では、公徳心、公共心、親孝行、社会奉仕といった、青少年において不十分だと散々非難されているこれら儒教臭い徳目はどのように取り扱われているのか確かめてみよう。
こうした、マナーや人間関係を円滑にするスキルの考え方、非社会的もしくは反社会的な行動態度についての指導が、学習指導要領から抜けているというのなら、それを加えるというのは簡単にできようものだし、わかりやすい。
指導項目に収載されているというのであれば、項目内容ではなく、実際に指導されているのかどうかということの点検がなされなければならないし、指導されているのなら、その「指導の仕方」が不十分であるとして批判され・指導されなければならないだろう。
先回りして述べておけば、公徳心、公共心、公共への献身、愛国心、郷土愛、あいさつ、生命への畏敬の念、家族愛、礼儀、その他事細かに軍国主義化前の「修身」教科書のように何でも網羅してあると言って過言ではない。
また、人智・人力を超えたものに「畏敬の念」を持つよう指導するとあるが、ニセ科学を崇拝しないか心配になる。理科教育・社会化教育との適切な連携が求められる。


小学校

抜粋

http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/990301b.htm

第三章 道徳
第1 目 標

道徳教育の目標は,……学校の教育活動全体を通じて,道徳的な心情,判断力,実践意欲と態度などの道徳性を養うこととする。

第2 内 容

〔第1学年及び第2学年〕
1 主として自分自身に関すること。
(1) 健康や安全に気を付け,物や金銭を大切にし,身の回りを整え,わがままをしないで,規則正しい生活をする。 (2) 自分がやらなければならない勉強や仕事は,しっかりと行う。 (3) よいことと悪いことの区別をし,よいと思うことを進んで行う。 (4) うそをついたりごまかしをしたりしないで,素直に伸び伸びと生活する。
2 主として他の人とのかかわりに関すること。
(1) 気持ちのよいあいさつ,言葉遣い,動作などに心掛けて,明るく接する。 (2) 身近にいる幼い人や高齢者に温かい心で接し,親切にする。 (3) 友達と仲よくし,助け合う。 (4) 日ごろ世話になっている人々に感謝する
3 主として自然や崇高なものとのかかわりに関すること。
(1) 身近な自然に親しみ,動植物に優しい心で接する。 (2) 生きることを喜び,生命を大切にする心をもつ。 (3) 美しいものに触れ,すがすがしい心をもつ。
4 主として集団や社会とのかかわりに関すること。
(1) みんなが使う物を大切にし,約束やきまりを守る。 (2) 父母,祖父母を敬愛し,進んで家の手伝いなどをして,家族の役に立つ喜びを知る。 (3) 先生を敬愛し,学校の人々に親しんで,学級や学校の生活を楽しくする。 (4) 郷土の文化や生活に親しみ,愛着をもつ。


〔第3学年及び第4学年〕
1 主として自分自身に関すること。
(1) 自分でできることは自分でやり,節度のある生活をする。 (2) よく考えて行動し,過ちは素直に改める。 (3) 自分でやろうと決めたことは,粘り強くやり遂げる。 (4) 正しいと思うことは,勇気をもって行う。 (5) 正直に,明るい心で元気よく生活する。
2 主として他の人とのかかわりに関すること。
(1) 礼儀の大切さを知り,だれに対しても真心をもって接する。 (2) 相手のことを思いやり,親切にする。 (3) 友達と互いに理解し,信頼し,助け合う。 (4) 生活を支えている人々や高齢者に,尊敬と感謝の気持ちをもって接する。
3 主として自然や崇高なものとのかかわりに関すること。
(1) 自然のすばらしさや不思議さに感動し,自然や動植物を大切にする。 (2) 生命の尊さを感じ取り,生命あるものを大切にする。 (3) 美しいものや気高いものに感動する心をもつ。
4 主として集団や社会とのかかわりに関すること。
(1) 約束や社会のきまりを守り,公徳心をもつ。 (2) 働くことの大切さを知り,進んで働く。 (3) 父母,祖父母を敬愛し,家族みんなで協力し合って楽しい家庭をつくる。 (4) 先生や学校の人々を敬愛し,みんなで協力し合って楽しい学級をつくる。 (5) 郷土の文化と伝統を大切にし,郷土を愛する心をもつ。 (6) 我が国の文化と伝統に親しみ,国を愛する心をもつとともに,外国の人々や文化に関心をもつ。


〔第5学年及び第6学年〕
1 主として自分自身に関すること。
(1) 生活を振り返り,節度を守り節制に心掛ける。 (2) より高い目標を立て,希望と勇気をもってくじけないで努力する。 (3) 自由を大切にし,規律ある行動をする。 (4) 誠実に,明るい心で楽しく生活する。 (5) 真理を大切にし,進んで新しいものを求め,工夫して生活をよりよくする。 (6) 自分の特徴を知って,悪い所を改めよい所を積極的に伸ばす。
2 主として他の人とのかかわりに関すること。
(1) 時と場をわきまえて,礼儀正しく真心をもって接する。 (2) だれに対しても思いやりの心をもち,相手の立場に立って親切にする。 (3) 互いに信頼し,学び合って友情を深め,男女仲よく協力し助け合う。 (4) 謙虚な心をもち,広い心で自分と異なる意見や立場を大切にする。 (5) 日々の生活が人々の支え合いや助け合いで成り立っていることに感謝し,それにこたえる。
3 主として自然や崇高なものとのかかわりに関すること。
(1) 自然の偉大さを知り,自然環境を大切にする。 (2) 生命がかけがえのないものであることを知り,自他の生命を尊重する。 (3) 美しいものに感動する心や人間の力を超えたものに対する畏敬の念をもつ。
4 主として集団や社会とのかかわりに関すること。
(1) 身近な集団に進んで参加し,自分の役割を自覚し,協力して主体的に責任を果たす。 (2) 公徳心をもって法やきまりを守り,自他の権利を大切にし進んで義務を果たす。 (3) だれに対しても差別をすることや偏見をもつことなく公正,公平にし,正義の実現に努める。 (4) 働くことの意義を理解し,社会に奉仕する喜びを知って公共のために役に立つことをする。 (5) 父母,祖父母を敬愛し,家族の幸せを求めて,進んで役に立つことをする。 (6) 先生や学校の人々への敬愛を深め,みんなで協力し合いよりよい校風をつくる。 (7) 郷土や我が国の文化と伝統を大切にし,先人の努力を知り,郷土や国を愛する心をもつ。 (8) 外国の人々や文化を大切にする心をもち,日本人としての自覚をもって世界の人々と親善に努める。

第3 指導計画の作成と各学年にわたる内容の取扱い

1 各学校においては,……道徳教育の全体計画と道徳の時間の年間指導計画を作成するものとする。

……
5 児童の道徳性については,常にその実態を把握して指導に生かすよう努める必要がある。ただし,道徳の時間に関して数値などによる評価は行わないものとする。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/990301b/990301k.htm

第4章 特別活動
第2 内 容

D 学校行事
(4)遠足・集団宿泊的行事

……集団生活の在り方や公衆道徳などについての望ましい体験を積むことができるような活動を行うこと。

(5) 勤労生産・奉仕的行事
勤労の尊さや生産の喜びを体得するとともに,ボランティア活動など社会奉仕の精神を涵養する体験が得られるような活動を行うこと。

第3 指導計画の作成と内容の取扱い

1 指導計画の作成に当たっては,次の事項に配慮するものとする。

(1) ……児童による自主的,実践的な活動が助長されるようにすること。また,家庭や地域の人々との連携,社会教育施設等の活用などを工夫すること。

2 第2の内容の取扱いについては,次の事項に配慮するものとする。

(4) 学校行事については,……実施に当たっては,幼児,高齢者,障害のある人々などとの触れ合い,自然体験や社会体験などを充実するよう工夫すること。

3 入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。〔おまけ引用〕

道徳及び特別活動の年間の授業時間はそれぞれ、1年生は34時間、それ以外は35時間であり、12ヶ月で除すると、夏休みなども勘案すればほぼ毎週1時間は道徳の授業を行っている。
これでも何か御不満ですか?!


中学校

中学校も概ね同様。性徴期にあわせた項目が増える。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/990301c/990301j.htm

第3章 道 徳
第2 内 容

1 主として自分自身に関すること。
(1) 望ましい生活習慣を身に付け,心身の健康の増進を図り,節度を守り節制に心掛け調和のある生活をする。 (2) より高い目標を目指し,希望と勇気をもって着実にやり抜く強い意志をもつ。 (3) 自律の精神を重んじ,自主的に考え,誠実に実行してその結果に責任をもつ。 (4) 真理を愛し,真実を求め,理想の実現を目指して自己の人生を切り拓いていく。 (5) 自己を見つめ,自己の向上を図るとともに,個性を伸ばして充実した生き方を追求する。


2 主として他の人とのかかわりに関すること。
(1) 礼儀の意義を理解し,時と場に応じた適切な言動をとる。 (2) 温かい人間愛の精神を深め,他の人々に対し感謝と思いやりの心をもつ。 (3) 友情の尊さを理解して心から信頼できる友達をもち,互いに励まし合い,高め合う。 (4) 男女は,互いに異性についての正しい理解を深め,相手の人格を尊重する。 (5) それぞれの個性や立場を尊重し,いろいろなものの見方や考え方があることを理解して,謙虚に他に学ぶ広い心をもつ。


3 主として自然や崇高なものとのかかわりに関すること。
(1) 自然を愛護し,美しいものに感動する豊かな心をもち,人間の力を超えたものに対する畏敬の念を深める。 (2) 生命の尊さを理解し,かけがえのない自他の生命を尊重する。 (3) 人間には弱さや醜さを克服する強さや気高さがあることを信じて,人間として生きることに喜びを見いだすように努める。


4 主として集団や社会とのかかわりに関すること。
(1) 自己が属する様々な集団の意義についての理解を深め,役割と責任を自覚し集団生活の向上に努める。 (2) 法やきまりの意義を理解し,遵守するとともに,自他の権利を重んじ義務を確実に果たして,社会の秩序と規律を高めるように努める。 (3) 公徳心及び社会連帯の自覚を高め,よりよい社会の実現に努める。 (4) 正義を重んじ,だれに対しても公正,公平にし,差別や偏見のない社会の実現に努める。 (5) 勤労の尊さや意義を理解し,奉仕の精神をもって,公共の福祉と社会の発展に努める。 (6) 父母,祖父母に敬愛の念を深め,家族の一員としての自覚をもって充実した家庭生活を築く。 (7) 学級や学校の一員としての自覚をもち,教師や学校の人々に敬愛の念を深め,協力してよりよい校風を樹立する。 (8) 地域社会の一員としての自覚をもって郷土を愛し,社会に尽くした先人や高齢者に尊敬と感謝の念を深め,郷土の発展に努める。 (9) 日本人としての自覚をもって国を愛し,国家の発展に努めるとともに,優れた伝統の継承と新しい文化の創造に貢献する。 (10) 世界の中の日本人としての自覚をもち,国際的視野に立って,世界の平和と人類の幸福に貢献する。

第3 指導計画の作成と内容の取扱い



第4章 特別活動

(4) 旅行・集団宿泊的行事
平素と異なる生活環境にあって,見聞を広め,自然や文化などに親しむとともに,集団生活の在り方や公衆道徳などについての望ましい体験を積むことができるような活動を行うこと。
(5) 勤労生産・奉仕的行事
勤労の尊さや創造することの喜びを体得し,職業や進路にかかわる啓発的な体験が得られるようにするとともに,ボランティア活動など社会奉仕の精神を養う体験が得られるような活動を行うこと。

高等学校

高等学校になると、「道徳」という教科はなくなる。そして、教科としては「公民」という受験科目に疎外された形で実施される。教科教育・特別活動においても「徳育」をむき出しにしたような目標はない。高校生にもなれば、オトナから指摘され・指導されるような内容ではなく、すでに理解されているような内容であるからであろうか。
一般に教科教育・教科外教育は生徒にとって、受験・進学のための科目に疎外され、実生活やその感覚から切り放されたところで「位置づけ」られ、「暗記」され、或いは「理解」される傾向があるだろう。
それでも「公民」科についての指導要領の記述は知識の伝達(「理解させる」)のみならず「考えさせる」「自覚を深めさせる」という実践的な文言になっている。

http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/990301d/990301a.htm

第1章 総 則
第1款 教育課程編成の一般方針

2 学校における道徳教育は,生徒が自己探求と自己実現に努め国家・社会の一員としての自覚に基づき行為しうる発達段階にあることを考慮し人間としての在り方生き方に関する教育を学校の教育活動全体を通じて行うことにより,その充実を図るものとし,各教科に属する科目,特別活動及び総合的な学習の時間のそれぞれの特質に応じて適切な指導を行わなければならない。
道徳教育は,教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づき,人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を家庭,学校,その他社会における具体的な生活の中に生かし,豊かな心をもち,個性豊かな文化の創造と民主的な社会及び国家の発展に努め,進んで平和的な国際社会に貢献し未来を拓く主体性のある日本人を育成するため,その基盤としての道徳性を養うことを目標とする。
道徳教育を進めるに当たっては,特に,道徳的実践力を高めるとともに,自律の精神や社会連帯の精神及び義務を果たし責任を重んずる態度や人権を尊重し差別のないよりよい社会を実現しようとする態度を養うための指導が適切に行われるよう配慮しなければならない。
4 学校においては,地域や学校の実態等に応じて,就業やボランティアにかかわる体験的な学習の指導を適切に行うようにし,勤労の尊さや創造することの喜びを体得させ,望ましい勤労観,職業観の育成や社会奉仕の精神の涵養に資するものとする。

第3節 公 民
第1款 目 標
第2款 各 科 目

(1) 内容の全体にわたって,次の事項に配慮するものとする。
ア 中学校社会科及び道徳並びに公民科に属する他の科目,地理歴史科及び特別活動などとの関連を図るとともに,全体としてのまとまりを工夫し,特定の事項だけに偏らないようにすること。

第4章 特別活動

(5) 勤労生産・奉仕的行事
勤労の尊さや創造することの喜びを体得し,職業観の形成や進路の選択決定などに資する体験が得られるようにするとともに,ボランティア活動など社会奉仕の精神を養う体験が得られるような活動を行うこと。

小中学校において道徳教育に困難があるのだろうか

高校生に対してあれこれの徳目を「教育」するのは、自我とともに社会性が発達した青年に対して行うのであるから、教育する側もされる側も苦痛であろう。だから、「道徳」という授業はないし、必要もないのだろう。
問題は「心のノート」など国定教科書をムリヤリ導入して、道徳的な教育については力もカネもかけているはずなのに、どうして「公共心」「公徳心」などが声高に叫ばれなければならないのかということではないだろうか。
私も小中学校の現場を知りはしないが、小中学校では、道徳教育の授業の上手・下手とか、時間数が不足しているとかいうのとは別の、学校生活全体・あるいは家庭での特別の困難があるのではなかろうか。
この特別の困難を児童生徒に寄り添って十分分析掌握せずに、徳育や規律だけを強調して、うまく行かない児童生徒に罰を与える・下手な教師を馘首するなどの対応では、上や外からの圧力を強める分だけ良くない結果をもたらすのではなかろうか。
教育再生会議での論議については詳細未読だが、目や耳に飛び込むニュースの断片から、そんな気がする。



それにしても、改めて上にダラダラ引用した「徳目」は政治家、大企業家たちには本当に身についていないな。
いくら身内同士で「あいさつ」を強調しあっても、彼らの社会的地位に応じた徳力は台無しである。
青年たちに「人間力」を要求する前に基本的な「道徳力」を点検して、他人に何か要求できる資格があるか反省すべきであろう。