▼多国籍企業と国民経済⑤---民主的規制の強化

2013-7-30 赤旗

 世界を震撼させた2008〜2009年の金融危機のあと、20カ国首脳会議(G20サミット)などが恒常化し、深刻な金融危機の再発を防ぐための国際的金融規制や各国の金融制度改革が進められてきました。

多国籍企業と国民経済⑤

経済研究者 友寄英隆さん
投機活動を監視

 国際的な金融機関の暴走は、金融の「自由化」「規制緩和」を推進してきた結果です。
 金融危機の再発を防ぐには、投機的な活動の暴走で国際金融市場を大混乱させた巨大な多国籍銀行や証券会社に対する監視が不可欠です。そのために、金融安定理事会(FSB*1は、11年11月、世界の金融システムの安定に影響する巨大金融機関をG-SIFIs*2と指定して、国際的な監視の対象とすることを決めました。
 また、FSBは、いわゆる「影の銀行」(投資銀行ヘッジファンド)への規制を強化し、各国も国内で独自に監視すべき巨大金融機関を選定するよう要請しています。
 しかし、金融危機から5年近くたって、国際的な金融規制の本格的な実施に至る以前に、金融規制の強化に反対する巻き返しの動きが強まっています。金融規制を実現するには、国際的な世論と運動の力が必要です。

ILO呼びかけ

 金融機関の暴走に対する規制とともに、国際的に重要なのは、製造業、流通業、サービス業などの多国籍業の横暴、とりわけ劣悪な労働条件、過酷な搾取に対する民主的規制です。
 各国の労働者・国民の国際連帯の運動によって、労働条件や環境基準などの「下向き競争」ではなく、逆に「上向き競争」(より高い規準に平準化していく競争)に転換していかねばなりません。
 国際労働機関(ILO)は、1999年の爽快で「ディーセントワーク」(decent work =働きがいのある人間らしい労働)という新しいコンセプトとそのための戦略的課題を打ち出しました。
 ILOの呼びかけに応えて、全国労働組合総連合(全労連)は、安定した良質な雇用を求め、2010年9月から、毎月第3金曜日をディーセントワークデーとして全国各地で宣伝・学習に取り組んでいます。このような運動が草の根からの発展することが求められています。

ICTの活用を

 最後に、多国籍企業に対する国際的な民主的規制を発展させるために、情報通信技術(ICT)を積極的に活用することにふれておきましょう。
 ICTは、多国籍企業が各国の国民を支配する道具になっていますが、それはまた多国籍企業を民主的に規制するための新たな条件にもなります。
 たとえば、このシリーズの第1回のなかで、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)の活動について紹介しました。ICIJの調査によるタックスヘイブンの極秘情報がネットで公開されたために、だれでも、どこからでも簡単にアクセスできることは、多国籍企業の課税逃れに対する民主的規制の運動にとって、大きな力になります。
 ICTの活用、とりわけインターネットによる情報の共有は、21世紀の民主的規制の手段と運動の発展にとって新たな可能性を切り開いています。


ミニデータ⑤

■民主的規制の国際基準
  1. 国連のグローバルコンパクト(1999年)=当時のアナン国連事務総長が提唱。多国籍企業などに、人権、労働、環境、腐敗防止に関する10原則を遵守し実践するよう要請しています。
  2. 経済協力開発機構OECD)の多国籍企業ガイドライン=1976年に採択され、その後、84年、91年、2000年、11年に改定。多国籍企業の行動規範として、人権、情報開示、雇用・労使関係、環境、汚職防止、消費者保護、科学技術、競争、課税などの原則を勧告しています。







*1:FSB:Financial Stability Board、金融安定理事会。G20の指示で2009年に発足した組織。国際金融に関する措置、規制、監督などの役割を担う。事務局は、スイスにある国際決済銀行内。

*2:G-SIFIsは、(global-systemically important financial institutions) =世界の金融システムの安定に影響する巨大金融機関。2011年11月の選定では、29社。2012年の新しい選定では、2011年選定から表の×印の3社を除外し、新たに※印の2社を追加し、28社とした。