▼多国籍企業と国民経済①---「租税国家」の危機
2013-07-24 赤旗
国境を越えた企業の活動が活発になるにつれ、税逃れや「空洞化」、労働条件の切り下げなど世界的にさまざまな問題が肥大化しています。経済研究者、友寄英隆さんの多国籍企業についての論考を5回にわたり連載します。
多国籍企業と国民経済①
経済研究者 友寄英隆さん
今年6月に英国の来たアイルランドで開かれた主要8カ国(G8)首脳会議では、多国籍企業や大富豪たちによるタックスヘイブン(租税回避地)を利用した税金逃れ問題が議題となりました。多国籍企業などによる「税収の空洞化」が、もはやG8各国の支配層にとっても無視できないところまできていることを示しています。
極秘情報を公表
最近、多国籍企業の課税逃れをめぐる話題が相次いでいます。
○英国でスターバックスの課税逃れを糾弾
○スイスのUBS銀行の顧客口座リストをめぐる米政府との紛争
○アマゾンなど情報通信技術(ICT)企業の消費税逃れを楽天が批判
○米国でアップルの課税逃れについて議会が報告書
とりわけ衝撃的なニュースは、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)*1が、英国バージン諸島、ケイマン諸島などのタックスヘイブンの実態を暴露する膨大なデータを公表したことでした。
タックスヘイブンとは、法人税や所得税などの税率がゼロか極めて低い国・地域のことです。その実態は、なかなか把握できなかったのですが、今回のICIJの公表データは、10万件以上の企業やファンドの秘密ファイルを含んでいるといわれています。税引き下げ競争
タックスヘイブンによる課税逃れだけではありません。
多国籍企業が発展するとともに、「企業が国を選ぶ時代」などといわれるようになり、各国とも「法人税率引き下げ競争」に巻き込まれてきました。
法人税率引き下げ競争の先陣を切ったイギリスの場合、1980年代初めに50%だった法人税率は45%→40%→35%→34%→33%→30%へ、次々と引き下げられてきました。日本の場合も、図のように、法人税率(国税分)は43.3%(1984年)から25.5%(2012年)にまで引き下げられてきています。http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/corporation/082.htm
財務省「法人税率の推移」より。
(注)平成24年4月1日から平成27年3月31日の間に開始する各事業年度に適用される税率。
(※)昭和56年4月1日前に終了する事業年度については年700万円以下の所得に適用。こうした法人税引き下げ競争の口実とされたのが“法人税率が高いと国際競争のうえで不利になる”などという「国際競争力論」です。多国籍企業は、「国際競争力のために」という錦の御旗をかかげて、法人税率の引き下げを競わせてきたのです。しかし、その結果は、各国とも「税収の空洞化」が拡大し、巨額な財政赤字に苦しむことになりました。
資本主義の危機
20世紀最大の経済学者の一人といわれるJ・シュンペーター(1983〜1950)が、第1次大戦後の世界的な資本主義の危機の時代に、「租税国家の危機」(1918年)という興味深い講演をしたことがあます。
シュンペーターは、講演の中で「近代の資本主義国家は租税で成り立っているので、租税国家の危機は、その基板である資本主義そのものの危機を示している」という趣旨のことを強調しています。
シュンペーターの講演から約1世紀たち、歴史的条件は大きく変わりました。しかし、現代の「租税国家の危機」が世界的に資本主義の行き詰まりの反映であることは同じです。
いま世界各国で焦点になっている「緊縮政策」は、現代の「租税国家の危機」を、すべて国民・勤労者にたいする犠牲の押し付けで一時的に繰り延べようというものです。しかし多国籍企業の横暴を野放しにした税財政政策では、「租税国家の危機」を解決することはできません。その路線には、行き詰った資本主義を根本的に立て直そうという視点が欠けているからです。
ミニ・データ①
(つづく)