▼多国籍企業と国民経済②---「産業国家」の危機

2013-07-25 赤旗

 多国籍企業の発展は、資本主義各国で「租税国家」の危機をもたらすとともに、国民経済そのものを衰退させる「産業国家」の危機をつくり出しています。

多国籍企業と国民経済②

経済研究者 友寄英隆さん
「空洞化」が進む

 大企業の多国籍企業化に伴って、日本企業の海外現地生産比率は急速に上昇しています(図)。こうした海外への投資の流出にともなって起こるのが、国内での「産業と雇用の空洞化」です。
 昨年の経済産業省の通商白書や内閣府の「日本経済2012〜13」(ミニ経済白書)は、政府の白書として初めて本格的に「空洞化」をとりあげました。
 「『空洞化』の進展を示唆する兆候が見られており、こうした動きが強まっていくと、雇用に加えて生産の縮小や生産性の低下が生じる懸念もあると考えられる」(ミニ経済白書)


内閣府『日本経済2012-2013』「第3章第1節海外生産移転の進展」より。赤旗に表示されている「通所白書」2012年版から作成したグラフとは別のもの。赤旗のグラフは日本の海外生産比率を「5年前の予想」と「実績」とを比較して、実績が見通しを上回る早いペースで進展していることを示している。

http://www5.cao.go.jp/keizai3/2012/1222nk/img/n12_3_1_02z.html

 もちろん、多国籍企業化は必ず「空洞化」をもたらすというわけではありません。対外直接投資の増大は、投資財や生産財の輸出の増大や国内投資に連動する“効果”もあります。
 しかし、日本の場合は、あまりにも急激に対外投資が増加してきたために、国内の経済成長が停滞しつつあります。通商白書も「(ドイツや米国などの)主要国では対外直接投資と国内投資の両方が増加傾向にある中、我が国のみが対外直接投資が増加する一方で国内投資が減少している」と指摘しています。

労働条件の改悪

 国連貿易開発会議(UNCTAD)の「世界投資報告」(2002年版)は、経済のグローバル化によって、多国籍企業の支配、影響力が強まり、世界各国のウ同条件や環境基準を引き下げる「下向き競争」が激化していると警告しました。
 多国籍企業が「下向き競争」を利用するのは、発達した資本主義国の労働条件を、発展途上国の低い賃金、送れた労働条件と「下向きに競争」させて、切り下げていくためです。
 さらに、多国籍企業の天界とともに、世界的に労働法制の規制緩和によって非正規雇用が公認」されるようになり、各国でワーキングプアが急増しています。こうした労働法制の規制緩和の流れを促進しているのは米国の多国籍企業が主導するグローバリゼーションであり、労働法制の「米国モデル」の世界化の動きです。

巨大企業の支配

 米国のリベラル派の経済学者として知られたJ・K・ガルブレイス(1908〜2006)は、現代の資本主義経済を、巨大企業が支配する「新しい産業国家」として描きました。
 ガルブレイスは、市場経済の価格メカニズムによって産業や経済が成長するという主流派の「新古典派経済学」を批判し、巨大企業が国民経済をすみずみまで支配する「産業国家」が形成されると論じたのです。
 ガルブレイスが『新しい産業国家』を米国で出版したのは、1967年でした。すでに米国の巨大企業は多国籍企業化して世界各国へ進出していましたが、まだ当時は、今日のように世界的なグローバル化によって、各国の産業や雇用、投資や技術開発の条件に大きな変化が生まれるまでにはいたっていませんでした。その意味で、ガルブレイスは、多国籍企業化による「産業国家」の危機については論じていません。
 ガルブレイスが、いま『新しい産業国家』の改定新版を出すとすれば、大企業の多国籍企業化による「空洞化」や「下向き競争」による労働法制の改悪など、産業や雇用の急激な変貌をどのように描いたでしょうか。

ミニ・データ②

多国籍企業の増大

 国連貿易開発会議(UNCTAD)の「世界投資報告」によると、1990年の時点で、世界で活動する多国籍企業(金融を除く)は約3万5000社、海外子会社は約15万社でしたが、2008年には約8万2000社、海外子会社は約81万社に増えています。ただし、この中には国境を越えて活動する中小企業も多数含まれています。