▼多国籍企業と国民経済③---「福祉国家」を攻撃

2013-7-26 赤旗

 第2次世界大戦後、発達した資本主義諸国では、労働者・国民の戦いの高揚を背景として、医療・年金・福祉などの諸制度が拡充され、いわゆる「福祉国家」が形成されました。
 しかし、当初から保守支配層は、「福祉国家を充実すれば国家財政がもたなくなる」などと攻撃し、「福祉国家の危機」論をたえず繰り返してきました。

多国籍企業と国民経済③

経済研究者 友寄英隆さん
崩れる二つの柱

 1970年代には戦後資本主義体制の矛盾が激しくなり、それとともに「福祉国家の危機」が国際的に問題となり、経済協力開発機構OECD)は、「福祉国家の危機」についての国際会議(1980年)を開きました。
 1980年代以降は、多国籍企業の発展とともに、すでに述べたような「租税の空洞化」「産業と雇用の空洞化」と拍車がかかり、支配層にとって「福祉国家」を維持することはますます重荷になりました。
 従来の先進諸国の「福祉国家」は、国民経済の安定した経済成長と「完全雇用」による税収を前提として、社会保障制度を拡充するというものでした。
 ところが多国籍企業の天界とともに、「福祉国家」の前提とする二つの柱---?完全雇用、?社会保障制度---そのものが、「新自由主義」の「構造改革」路線によって掘り崩されるようになりました。

国民の分断図る

 多国籍企業の時代に入り、「福祉国家の危機」は新たな局面を迎えています。
 「完全雇用」どころか、資本主義諸国では、失業者の増大・雇用危機が恒常化しています。国際労働機関(ILO)の最新の発表では、世界全体の失業者数は2013年に初めて2億人を突破し、今後も増え続けると予測しています。とりわけ欧米日諸国の若者の失業・雇用問題は深刻です。
 多国籍業の支配が野放しにされている国では、従来の「完全雇用と福祉」で労働者・国民を統合する「福祉国家論」に代わって、「新自由主義的なイデオロギー」(「自己責任」や「相互扶助論」など)で国民を分断し、相互に競争させることによって支配の維持を図ろうとしています。
 日本でも、「アベノミクス」(安倍晋三内閣の経済政策)によって、年金・医療・福祉など社会保障制度の全面的な改悪、雇用制度の規制緩和がもくろまれています。

露呈する「限界」

 第2次世界大戦後の世界的な「福祉国家」の形成を経済理論の面から支えたのは、ケインズ経済学でした。
 イギリスの経済学者、J・M・ケインズ(1883〜1946)は、その主著『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936年)のなかで、「完全雇用」を実現するためには、国家が有効需要を拡大する経済政策を積極的におこなう必要があると主張し、その経済理論を確立しました。このようなケインズ主義政策は、戦後の資本主義各国で採用され「ケインズ主義型福祉国家」とも呼ばれるようになりました。
 しかし、多国籍企業の発展は、国民経済の経済成長を前提にしたケインズ主義政策の「限界」を示すことにもなっています。
 今日の「ケインズ主義型福祉国家」の危機の根底には、労働者・国民の生存権、人間らしい生活を求める要求にたいして、多国籍企業の支配を野放しにする資本主義では、もはや応えきれないという時代の変化があります。

http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2013_1/ilo_01.htm

ミニデータ③
■巨大多国籍企業の内訳
 国連貿易開発会議(UNCTAD)の「世界投資報告」によると、巨大な多国籍企業100社(2007年)の内訳は、米国19、英国15、フランス14、ドイツ12、日本10、スイス4、オランダ4、スペイン3、韓国3、イタリア2となっており、この10カ国で86社を占めています。