▼多国籍企業と国民経済④---地球環境の危機

2013-7-27 赤旗

 多国籍企業は、重化学工業や情報通信技術(ICT)を利用した巨大な生産力による大量生産方式を世界中に広げ、世界のエネルギー消費に拍車をかけ、公害を国境を越えてまき散らすとともに、地球温暖化などの環境危機を促進してきました。

多国籍企業と国民経済④

経済研究者 友寄英隆さん
「大きな影響」が

 多国籍企業にとって、さまざまな規制で制約される国内市場と違って世界市場は広大です。公害・環境規制などの法的ブレーキは、新興国では相対的に遅れています。多国籍企業の経営者は、「国際競争」という強制法則に駆り立てられて暴走し、資源や食糧の獲得競争に狂奔して、環境危機を激化させてきました。
 国連総会の決議で設立された「環境と開発に関する世界委員会(WCED)」*1は、「多国籍企業は、他国の環境と資源、地球全体の共有物に大きな影響を与え得る」として、「母国で投資する際に多国籍業に適用される政策や規準に関する情報、特に有害な物質を取り扱う技術に関するものは、受け入れ国にも供与されるべきである」と指摘しています。

アジアが焦点に

 世界の主要な環境問題の大半がアジアを中心に起こっているといわれています。
 アジアでは、世界的な多国籍企業の活動が集中した結果として、世界の成長センターになると同時に、「古典的公害被害からハイテク汚染、軍事環境問題、気候変動問題に至るまで多種多様な環境問題が集積し、被害が放置されている」(『アジア環境白書』2010/11年版)と指摘されています。たとえば、中国における大気汚染の深刻化は、北京を訪問した人なら、だれでも実感することです。
 しかし、近年、アジアでも、国際的な環境政策の取り組みが草の根から着実に発展しています。日本環境会議が1997年に創刊して3年ごとに発表される『アジア環境白書』も5冊目を数え、多面的で重層的な「アジア環境ネットワーク」の構築が進んでいます。

比類なき汚染に

 地球の自然環境を破壊するというう意味では、核兵器の使用や原子力発電所事故による放射能汚染に比すべきものはありません。
 ひとたび放射性物質が大量に放出されると、その影響は空間的にも、時間的にも、際限なく広がり、それを防止留守手段はありません。2011年3月11日の福島原発大事故は、その危険性をまざまざと示しました。
 その日本で、福島原発事故の収束も原因解明もなされないうちに、安倍内閣原発再稼動へ動いています。自民党は、参院選の公約では「原子力技術等のインフラ輸出」を明記し、安倍首相みずから、原発輸出のセールスに奔走して「死の灰の商人」となっています。
 こうした安倍政権のバックには、三菱、東芝、日立など原子炉メーカーの多国籍企業があることは言うまでもありません。
 多国籍企業は、現代資本主義の生産力を世界に押し広げ、新興国の経済成長の要因となったという意味では、一定の「文明化作用」の役割を果たしたといえるでしょう。
 しかし、その傍若無人の活動は、「租税国家の危機」「産業国家の危機」「福祉国家の危機」「地球環境の危機」など、はかりしれない「反文明的な作用」ももたらしてきました。
 21世紀は、世界史的にみると、多国籍企業の経済的横暴を規制し、その社会的責任を果たさせる時代だと言えるでしょう。



出典)
EDMC/エネルギー・経済統計要覧2011年版
* 国別排出量比は世界全体の排出量に対する比で単位は[%]
* 排出量の単位は[トン/人-二酸化炭素(CO2)換算]
全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(すぐ使える図表集)より

http://daily-ondanka.es-inc.jp/basic/data_05.html

ミニデータ④

新興国多国籍企業

 欧米日の大企業の多国籍企業化だけでなく、近年は新興国多国籍企業も増加しています。国連貿易開発会議(UNCTAD)の「世界投資報告」によると、新興国だけの多国籍企業100社(2007年)ランキングでは、中国(香港含む)が38社、東アジアだけで76社を占めています。








*1:環境と開発に関する世界委員会(WCED):通称、国連環境特別委員会=ブルントラント委員会。1984年に日本の提案で設立され、地域環境問題に詳しい各国の21人が討議を続け、87年に最終報告書をまとめました。