▼成果主義賃金の検証

独立行政法人 労働政策研究・研修機構

『日本労働研究雑誌』特集:成果主義を検証する
http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2006/09/index.htm

で内容の要約を紹介している。敬称は略させていただく。
で、要約だけ読んでいると、新聞などの成果主義賃金のルポとはずいぶん立っている場が違うのだなと感じる。「働く人からみた」とあるけれど、働く人が見た成果主義賃金制度ではないのがありあり(要約だからそう感じるのか)。

成果主義賃金制度と労働法(学)の10年 石井保雄(獨協大学法学部教授)

成果測定は具体的には、「目標管理制度」を通じて行なわれることから、法的にこれをいかに捉えるかをめぐり、注目が集まり、議論された。このように今日、評価手続の「透明化」「プロセス化」が進むなか、人事考課の法的性格をいかに捉えるかについては、それを使用者の裁量権と理解するか、それとも使用者にとって信義則に基づく義務履行と考えるか見解が分かれている。

成果主義導入の背景とその功罪 阿部正浩(獨協大学経済学部助教授)

成果主義」にも問題が存在するにもかかわらず、日本企業でそれが普及してきた背景には、技術進歩やコーポレート・ガバナンスが変化してきたことも関係している。そして、「成果主義」を導入されたという意識を労働者に与えることで、労働者の働き方を見直させる契機になったのではないだろうか。

賃金制度改革の着地点 石田光男(同志社大学社会学部教授)

日本の賃金制度がもっとも円熟した1980年代は「能力主義」の賃金制度であった。1990年代以降の環境の激変を受けて、「成果主義」の賃金制度が追求されてきた。

変化を要約すれば以下のようになる。
1.キーコンセプトの変化。職務遂行能力から役割へ。
2.社員等級の変化。職能資格等級から役割等級へ。
3.基本給の変化。年齢給+職能給から役割給へ。
4.人事考課の変化。能力考課+情意考課+業績考課からコンピテンシー評価+成果評価へ。
企業で使用されている用語は多様であるが、実はこのような要約を可能にする簡明な変化であったことを論ずる。この簡明さの背景には、組織から人事を発想するのではなく、市場から人事を発想するパラダイムチェンジがあった。市場⇒経営戦略→組織再編→仕事管理→人事・賃金管理という論理の流れがはっきりしたということである。このため、人事・賃金管理は仕事管理との整合性を確保できる「役割」という概念を発見する必要があった。「役割等級」を軸に、一方では成果評価を、他方では「コンピテンシー評価」を備えることによって、市場から発信される価格情報を組織内の管理規則(administrative rule)に翻訳可能になったのである。まことに大きな変化をくぐったと言わざるを得ない。

働く人からみた成果主義 立道信吾(JILPT研究員)・守島基博(一橋大学大学院商学研究科教授)

成果主義に対する評価の分析からは、

  1. 賃金の分配原理として、成果主義は、職務経験や能力を重視する考え方とともに支持するものが多い。
  2. 給与への成果・業績の連動の方法については、個人業績よりも部門・チームや会社全体の業績を重視して欲しいと考えている。
  3. 自社で導入されている成果主義については、疑問視する声が大きい。
  4. システムとして未成熟な段階にある成果主義が働く人の不満を高めている。

また、賃金格差についての分析結果からは以下の4点が明らかになった。

  1. 成果主義の導入は、賃金格差を大きくしている。
  2. 2000年以降に成果主義を導入した企業は、賃金格差が小さい、
  3. 働く人は、現状よりも大きな賃金格差を期待している、
  4. しかし、実際に賃金格差が増大すると、納得感の低下に繋がるが、納得性確保のための施策が充実している企業では、納得感の低下が避けられる

なお、「コンピテンシー評価」については下記など参照。
http://www.srup21.co.jp/room/src_1_15.html
http://www.srup21.co.jp/room/src_05.html
http://mbasolution.com/onepointmba/lesson76.htm

コンピテンシー評価とは?
→短期的に成果をあげる能力と間接的で中・長期的に会社の業績を向上させる思考特性や行動特性の提供という2つの分野において社員を評価する手法。
コンピテンシーモデルの作成プロセス
1.ハイパフォーマーの選定
2.アンケートやインタビューによる成功要因の調査・分析
3.好業績に結びつく思考・行動特性の抽出
4.コンピテンシーモデルの作成
5.コンピテンシーモデルの検証
6.コンピテンシーモデルのシェア
コンピテンシー評価のメリット
成果主義は短期的な成果に比重が置かれ、中長期的な観点が欠落するというデメリットがあるが、コンピテンシー評価は好業績に繋がる思考特性や行動特性を会社に提供することにより、中長期的な貢献もカバーするなど、より多面的に人事評価が行える。