▼多国籍企業と国民経済⑤---民主的規制の強化

2013-7-30 赤旗

 世界を震撼させた2008〜2009年の金融危機のあと、20カ国首脳会議(G20サミット)などが恒常化し、深刻な金融危機の再発を防ぐための国際的金融規制や各国の金融制度改革が進められてきました。

多国籍企業と国民経済⑤

経済研究者 友寄英隆さん
投機活動を監視

 国際的な金融機関の暴走は、金融の「自由化」「規制緩和」を推進してきた結果です。
 金融危機の再発を防ぐには、投機的な活動の暴走で国際金融市場を大混乱させた巨大な多国籍銀行や証券会社に対する監視が不可欠です。そのために、金融安定理事会(FSB*1は、11年11月、世界の金融システムの安定に影響する巨大金融機関をG-SIFIs*2と指定して、国際的な監視の対象とすることを決めました。
 また、FSBは、いわゆる「影の銀行」(投資銀行ヘッジファンド)への規制を強化し、各国も国内で独自に監視すべき巨大金融機関を選定するよう要請しています。
 しかし、金融危機から5年近くたって、国際的な金融規制の本格的な実施に至る以前に、金融規制の強化に反対する巻き返しの動きが強まっています。金融規制を実現するには、国際的な世論と運動の力が必要です。

ILO呼びかけ

 金融機関の暴走に対する規制とともに、国際的に重要なのは、製造業、流通業、サービス業などの多国籍業の横暴、とりわけ劣悪な労働条件、過酷な搾取に対する民主的規制です。
 各国の労働者・国民の国際連帯の運動によって、労働条件や環境基準などの「下向き競争」ではなく、逆に「上向き競争」(より高い規準に平準化していく競争)に転換していかねばなりません。
 国際労働機関(ILO)は、1999年の爽快で「ディーセントワーク」(decent work =働きがいのある人間らしい労働)という新しいコンセプトとそのための戦略的課題を打ち出しました。
 ILOの呼びかけに応えて、全国労働組合総連合(全労連)は、安定した良質な雇用を求め、2010年9月から、毎月第3金曜日をディーセントワークデーとして全国各地で宣伝・学習に取り組んでいます。このような運動が草の根からの発展することが求められています。

ICTの活用を

 最後に、多国籍企業に対する国際的な民主的規制を発展させるために、情報通信技術(ICT)を積極的に活用することにふれておきましょう。
 ICTは、多国籍企業が各国の国民を支配する道具になっていますが、それはまた多国籍企業を民主的に規制するための新たな条件にもなります。
 たとえば、このシリーズの第1回のなかで、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)の活動について紹介しました。ICIJの調査によるタックスヘイブンの極秘情報がネットで公開されたために、だれでも、どこからでも簡単にアクセスできることは、多国籍企業の課税逃れに対する民主的規制の運動にとって、大きな力になります。
 ICTの活用、とりわけインターネットによる情報の共有は、21世紀の民主的規制の手段と運動の発展にとって新たな可能性を切り開いています。


ミニデータ⑤

■民主的規制の国際基準
  1. 国連のグローバルコンパクト(1999年)=当時のアナン国連事務総長が提唱。多国籍企業などに、人権、労働、環境、腐敗防止に関する10原則を遵守し実践するよう要請しています。
  2. 経済協力開発機構OECD)の多国籍企業ガイドライン=1976年に採択され、その後、84年、91年、2000年、11年に改定。多国籍企業の行動規範として、人権、情報開示、雇用・労使関係、環境、汚職防止、消費者保護、科学技術、競争、課税などの原則を勧告しています。







*1:FSB:Financial Stability Board、金融安定理事会。G20の指示で2009年に発足した組織。国際金融に関する措置、規制、監督などの役割を担う。事務局は、スイスにある国際決済銀行内。

*2:G-SIFIsは、(global-systemically important financial institutions) =世界の金融システムの安定に影響する巨大金融機関。2011年11月の選定では、29社。2012年の新しい選定では、2011年選定から表の×印の3社を除外し、新たに※印の2社を追加し、28社とした。

▼多国籍企業と国民経済④---地球環境の危機

2013-7-27 赤旗

 多国籍企業は、重化学工業や情報通信技術(ICT)を利用した巨大な生産力による大量生産方式を世界中に広げ、世界のエネルギー消費に拍車をかけ、公害を国境を越えてまき散らすとともに、地球温暖化などの環境危機を促進してきました。

多国籍企業と国民経済④

経済研究者 友寄英隆さん
「大きな影響」が

 多国籍企業にとって、さまざまな規制で制約される国内市場と違って世界市場は広大です。公害・環境規制などの法的ブレーキは、新興国では相対的に遅れています。多国籍企業の経営者は、「国際競争」という強制法則に駆り立てられて暴走し、資源や食糧の獲得競争に狂奔して、環境危機を激化させてきました。
 国連総会の決議で設立された「環境と開発に関する世界委員会(WCED)」*1は、「多国籍企業は、他国の環境と資源、地球全体の共有物に大きな影響を与え得る」として、「母国で投資する際に多国籍業に適用される政策や規準に関する情報、特に有害な物質を取り扱う技術に関するものは、受け入れ国にも供与されるべきである」と指摘しています。

アジアが焦点に

 世界の主要な環境問題の大半がアジアを中心に起こっているといわれています。
 アジアでは、世界的な多国籍企業の活動が集中した結果として、世界の成長センターになると同時に、「古典的公害被害からハイテク汚染、軍事環境問題、気候変動問題に至るまで多種多様な環境問題が集積し、被害が放置されている」(『アジア環境白書』2010/11年版)と指摘されています。たとえば、中国における大気汚染の深刻化は、北京を訪問した人なら、だれでも実感することです。
 しかし、近年、アジアでも、国際的な環境政策の取り組みが草の根から着実に発展しています。日本環境会議が1997年に創刊して3年ごとに発表される『アジア環境白書』も5冊目を数え、多面的で重層的な「アジア環境ネットワーク」の構築が進んでいます。

比類なき汚染に

 地球の自然環境を破壊するというう意味では、核兵器の使用や原子力発電所事故による放射能汚染に比すべきものはありません。
 ひとたび放射性物質が大量に放出されると、その影響は空間的にも、時間的にも、際限なく広がり、それを防止留守手段はありません。2011年3月11日の福島原発大事故は、その危険性をまざまざと示しました。
 その日本で、福島原発事故の収束も原因解明もなされないうちに、安倍内閣原発再稼動へ動いています。自民党は、参院選の公約では「原子力技術等のインフラ輸出」を明記し、安倍首相みずから、原発輸出のセールスに奔走して「死の灰の商人」となっています。
 こうした安倍政権のバックには、三菱、東芝、日立など原子炉メーカーの多国籍企業があることは言うまでもありません。
 多国籍企業は、現代資本主義の生産力を世界に押し広げ、新興国の経済成長の要因となったという意味では、一定の「文明化作用」の役割を果たしたといえるでしょう。
 しかし、その傍若無人の活動は、「租税国家の危機」「産業国家の危機」「福祉国家の危機」「地球環境の危機」など、はかりしれない「反文明的な作用」ももたらしてきました。
 21世紀は、世界史的にみると、多国籍企業の経済的横暴を規制し、その社会的責任を果たさせる時代だと言えるでしょう。



出典)
EDMC/エネルギー・経済統計要覧2011年版
* 国別排出量比は世界全体の排出量に対する比で単位は[%]
* 排出量の単位は[トン/人-二酸化炭素(CO2)換算]
全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(すぐ使える図表集)より

http://daily-ondanka.es-inc.jp/basic/data_05.html

ミニデータ④

新興国多国籍企業

 欧米日の大企業の多国籍企業化だけでなく、近年は新興国多国籍企業も増加しています。国連貿易開発会議(UNCTAD)の「世界投資報告」によると、新興国だけの多国籍企業100社(2007年)ランキングでは、中国(香港含む)が38社、東アジアだけで76社を占めています。








*1:環境と開発に関する世界委員会(WCED):通称、国連環境特別委員会=ブルントラント委員会。1984年に日本の提案で設立され、地域環境問題に詳しい各国の21人が討議を続け、87年に最終報告書をまとめました。

▼多国籍企業と国民経済③---「福祉国家」を攻撃

2013-7-26 赤旗

 第2次世界大戦後、発達した資本主義諸国では、労働者・国民の戦いの高揚を背景として、医療・年金・福祉などの諸制度が拡充され、いわゆる「福祉国家」が形成されました。
 しかし、当初から保守支配層は、「福祉国家を充実すれば国家財政がもたなくなる」などと攻撃し、「福祉国家の危機」論をたえず繰り返してきました。

多国籍企業と国民経済③

経済研究者 友寄英隆さん
崩れる二つの柱

 1970年代には戦後資本主義体制の矛盾が激しくなり、それとともに「福祉国家の危機」が国際的に問題となり、経済協力開発機構OECD)は、「福祉国家の危機」についての国際会議(1980年)を開きました。
 1980年代以降は、多国籍企業の発展とともに、すでに述べたような「租税の空洞化」「産業と雇用の空洞化」と拍車がかかり、支配層にとって「福祉国家」を維持することはますます重荷になりました。
 従来の先進諸国の「福祉国家」は、国民経済の安定した経済成長と「完全雇用」による税収を前提として、社会保障制度を拡充するというものでした。
 ところが多国籍企業の天界とともに、「福祉国家」の前提とする二つの柱---?完全雇用、?社会保障制度---そのものが、「新自由主義」の「構造改革」路線によって掘り崩されるようになりました。

国民の分断図る

 多国籍企業の時代に入り、「福祉国家の危機」は新たな局面を迎えています。
 「完全雇用」どころか、資本主義諸国では、失業者の増大・雇用危機が恒常化しています。国際労働機関(ILO)の最新の発表では、世界全体の失業者数は2013年に初めて2億人を突破し、今後も増え続けると予測しています。とりわけ欧米日諸国の若者の失業・雇用問題は深刻です。
 多国籍業の支配が野放しにされている国では、従来の「完全雇用と福祉」で労働者・国民を統合する「福祉国家論」に代わって、「新自由主義的なイデオロギー」(「自己責任」や「相互扶助論」など)で国民を分断し、相互に競争させることによって支配の維持を図ろうとしています。
 日本でも、「アベノミクス」(安倍晋三内閣の経済政策)によって、年金・医療・福祉など社会保障制度の全面的な改悪、雇用制度の規制緩和がもくろまれています。

露呈する「限界」

 第2次世界大戦後の世界的な「福祉国家」の形成を経済理論の面から支えたのは、ケインズ経済学でした。
 イギリスの経済学者、J・M・ケインズ(1883〜1946)は、その主著『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936年)のなかで、「完全雇用」を実現するためには、国家が有効需要を拡大する経済政策を積極的におこなう必要があると主張し、その経済理論を確立しました。このようなケインズ主義政策は、戦後の資本主義各国で採用され「ケインズ主義型福祉国家」とも呼ばれるようになりました。
 しかし、多国籍企業の発展は、国民経済の経済成長を前提にしたケインズ主義政策の「限界」を示すことにもなっています。
 今日の「ケインズ主義型福祉国家」の危機の根底には、労働者・国民の生存権、人間らしい生活を求める要求にたいして、多国籍企業の支配を野放しにする資本主義では、もはや応えきれないという時代の変化があります。

http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2013_1/ilo_01.htm

ミニデータ③
■巨大多国籍企業の内訳
 国連貿易開発会議(UNCTAD)の「世界投資報告」によると、巨大な多国籍企業100社(2007年)の内訳は、米国19、英国15、フランス14、ドイツ12、日本10、スイス4、オランダ4、スペイン3、韓国3、イタリア2となっており、この10カ国で86社を占めています。






▼多国籍企業と国民経済②---「産業国家」の危機

2013-07-25 赤旗

 多国籍企業の発展は、資本主義各国で「租税国家」の危機をもたらすとともに、国民経済そのものを衰退させる「産業国家」の危機をつくり出しています。

多国籍企業と国民経済②

経済研究者 友寄英隆さん
「空洞化」が進む

 大企業の多国籍企業化に伴って、日本企業の海外現地生産比率は急速に上昇しています(図)。こうした海外への投資の流出にともなって起こるのが、国内での「産業と雇用の空洞化」です。
 昨年の経済産業省の通商白書や内閣府の「日本経済2012〜13」(ミニ経済白書)は、政府の白書として初めて本格的に「空洞化」をとりあげました。
 「『空洞化』の進展を示唆する兆候が見られており、こうした動きが強まっていくと、雇用に加えて生産の縮小や生産性の低下が生じる懸念もあると考えられる」(ミニ経済白書)


内閣府『日本経済2012-2013』「第3章第1節海外生産移転の進展」より。赤旗に表示されている「通所白書」2012年版から作成したグラフとは別のもの。赤旗のグラフは日本の海外生産比率を「5年前の予想」と「実績」とを比較して、実績が見通しを上回る早いペースで進展していることを示している。

http://www5.cao.go.jp/keizai3/2012/1222nk/img/n12_3_1_02z.html

 もちろん、多国籍企業化は必ず「空洞化」をもたらすというわけではありません。対外直接投資の増大は、投資財や生産財の輸出の増大や国内投資に連動する“効果”もあります。
 しかし、日本の場合は、あまりにも急激に対外投資が増加してきたために、国内の経済成長が停滞しつつあります。通商白書も「(ドイツや米国などの)主要国では対外直接投資と国内投資の両方が増加傾向にある中、我が国のみが対外直接投資が増加する一方で国内投資が減少している」と指摘しています。

労働条件の改悪

 国連貿易開発会議(UNCTAD)の「世界投資報告」(2002年版)は、経済のグローバル化によって、多国籍企業の支配、影響力が強まり、世界各国のウ同条件や環境基準を引き下げる「下向き競争」が激化していると警告しました。
 多国籍企業が「下向き競争」を利用するのは、発達した資本主義国の労働条件を、発展途上国の低い賃金、送れた労働条件と「下向きに競争」させて、切り下げていくためです。
 さらに、多国籍企業の天界とともに、世界的に労働法制の規制緩和によって非正規雇用が公認」されるようになり、各国でワーキングプアが急増しています。こうした労働法制の規制緩和の流れを促進しているのは米国の多国籍企業が主導するグローバリゼーションであり、労働法制の「米国モデル」の世界化の動きです。

巨大企業の支配

 米国のリベラル派の経済学者として知られたJ・K・ガルブレイス(1908〜2006)は、現代の資本主義経済を、巨大企業が支配する「新しい産業国家」として描きました。
 ガルブレイスは、市場経済の価格メカニズムによって産業や経済が成長するという主流派の「新古典派経済学」を批判し、巨大企業が国民経済をすみずみまで支配する「産業国家」が形成されると論じたのです。
 ガルブレイスが『新しい産業国家』を米国で出版したのは、1967年でした。すでに米国の巨大企業は多国籍企業化して世界各国へ進出していましたが、まだ当時は、今日のように世界的なグローバル化によって、各国の産業や雇用、投資や技術開発の条件に大きな変化が生まれるまでにはいたっていませんでした。その意味で、ガルブレイスは、多国籍企業化による「産業国家」の危機については論じていません。
 ガルブレイスが、いま『新しい産業国家』の改定新版を出すとすれば、大企業の多国籍企業化による「空洞化」や「下向き競争」による労働法制の改悪など、産業や雇用の急激な変貌をどのように描いたでしょうか。

ミニ・データ②

多国籍企業の増大

 国連貿易開発会議(UNCTAD)の「世界投資報告」によると、1990年の時点で、世界で活動する多国籍企業(金融を除く)は約3万5000社、海外子会社は約15万社でしたが、2008年には約8万2000社、海外子会社は約81万社に増えています。ただし、この中には国境を越えて活動する中小企業も多数含まれています。



















 

▼多国籍企業と国民経済①---「租税国家」の危機

2013-07-24 赤旗

 国境を越えた企業の活動が活発になるにつれ、税逃れや「空洞化」、労働条件の切り下げなど世界的にさまざまな問題が肥大化しています。経済研究者、友寄英隆さんの多国籍企業についての論考を5回にわたり連載します。

多国籍企業と国民経済①

経済研究者 友寄英隆さん

 今年6月に英国の来たアイルランドで開かれた主要8カ国(G8)首脳会議では、多国籍企業や大富豪たちによるタックスヘイブン租税回避地)を利用した税金逃れ問題が議題となりました。多国籍企業などによる「税収の空洞化」が、もはやG8各国の支配層にとっても無視できないところまできていることを示しています。

極秘情報を公表

 最近、多国籍企業の課税逃れをめぐる話題が相次いでいます。
 ○英国でスターバックスの課税逃れを糾弾
 ○スイスのUBS銀行の顧客口座リストをめぐる米政府との紛争
 ○アマゾンなど情報通信技術(ICT)企業の消費税逃れを楽天が批判
 ○米国でアップルの課税逃れについて議会が報告書
 とりわけ衝撃的なニュースは、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)*1が、英国バージン諸島、ケイマン諸島などのタックスヘイブンの実態を暴露する膨大なデータを公表したことでした。
 タックスヘイブンとは、法人税所得税などの税率がゼロか極めて低い国・地域のことです。その実態は、なかなか把握できなかったのですが、今回のICIJの公表データは、10万件以上の企業やファンドの秘密ファイルを含んでいるといわれています。

税引き下げ競争

 タックスヘイブンによる課税逃れだけではありません。
 多国籍企業が発展するとともに、「企業が国を選ぶ時代」などといわれるようになり、各国とも「法人税率引き下げ競争」に巻き込まれてきました。
 法人税率引き下げ競争の先陣を切ったイギリスの場合、1980年代初めに50%だった法人税率は45%→40%→35%→34%→33%→30%へ、次々と引き下げられてきました。日本の場合も、図のように、法人税率(国税分)は43.3%(1984年)から25.5%(2012年)にまで引き下げられてきています。


財務省法人税率の推移」より。
(注)平成24年4月1日から平成27年3月31日の間に開始する各事業年度に適用される税率。
(※)昭和56年4月1日前に終了する事業年度については年700万円以下の所得に適用。

http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/corporation/082.htm

 こうした法人税引き下げ競争の口実とされたのが“法人税率が高いと国際競争のうえで不利になる”などという「国際競争力論」です。多国籍企業は、「国際競争力のために」という錦の御旗をかかげて、法人税率の引き下げを競わせてきたのです。しかし、その結果は、各国とも「税収の空洞化」が拡大し、巨額な財政赤字に苦しむことになりました。

資本主義の危機

 20世紀最大の経済学者の一人といわれるJ・シュンペーター(1983〜1950)が、第1次大戦後の世界的な資本主義の危機の時代に、「租税国家の危機」(1918年)という興味深い講演をしたことがあます。
 シュンペーターは、講演の中で「近代の資本主義国家は租税で成り立っているので、租税国家の危機は、その基板である資本主義そのものの危機を示している」という趣旨のことを強調しています。
 シュンペーターの講演から約1世紀たち、歴史的条件は大きく変わりました。しかし、現代の「租税国家の危機」が世界的に資本主義の行き詰まりの反映であることは同じです。
 いま世界各国で焦点になっている「緊縮政策」は、現代の「租税国家の危機」を、すべて国民・勤労者にたいする犠牲の押し付けで一時的に繰り延べようというものです。しかし多国籍企業の横暴を野放しにした税財政政策では、「租税国家の危機」を解決することはできません。その路線には、行き詰った資本主義を根本的に立て直そうという視点が欠けているからです。



ミニ・データ①

多国籍企業の業種

 一般に、「多国籍企業」という場合は、金融業を除き、主として鉱工業や流通業を念頭においていることが多い。しかし、「国際独占体」は、鉱工業、流通業だけでなく、金融、サービスなど、資本活動の行われる部面なら、あらゆる産業分野で生成・発展します。本稿では、金融業を含めて、世界的に展開する多国籍企業をとりあげます。

(つづく)

*1:米国の非営利調査報道機関の国際へ報道部門。英ガーディアン紙、米ワシントン・ポスト紙、仏ルモンド紙、日本の朝日新聞など計38の報道機関が協力。

▼全日本民主医療機関連合会 旧綱領

全日本民医連綱領(1961年10月29日改定)
われわれの病院、診療所は働くひとびとの医療機関である。
  一、われわれは患者の立場に立って親切でよい診療を行ない、力をあわせて働くひとびとの生命と健康を守る
  一、われわれはつねに学問の自由を尊重し、新しい医学の成果に学び、国際交流をはかり、たゆみなく医療内容の充実と向上につとめる
  一、われわれは職員の生活と権利を守り、運営を民主化し、地域・職域のひとびとと協力を深め、健康を守る運動をすすめる
  一、われわれは国と資本家の全額負担による総合的な社会保障制度の確立と医療制度の民主化のためにたたかう
  一、われわれは人類の生命と健康を破壊する戦争政策に反対する
この目標を実現するためにわれわれはたがいに団結をかため、医療戦線を統一し独立・民主・平和・中立・生活向上をめざすすべての民主勢力と手を結んで活動する。

http://www.min-iren.gr.jp/syuppan/genki/213/genki213-03.html

Program of the Japan Federation of Democratic Medical Institutions

Our Hospitals and clinics are medical institutions for working people.

  1. We provide medical care characterized by its quality and the kindness with which we treat our patients, and we participate in efforts to protect the lives and health of working people.
  2. We always respect academic freedom, study the latest achievements of medicine, promote international exchanges, and endeavor constantly to improve and develop medical care.
  3. We defend the livelihood and rights of the staff, work to democratize management, strengthen cooperation with the people of the community and in the workplace, and push ahead with the movement to protect health.
  4. We struggle for the establishment of a comprehensive social security system with the State and capitalists bearing all costs, and to democratize the whole medical system.
  5. We oppose war, which destroys lives and the health of humankind.

In order to realize these goals, we build solidarity, work for a united medical front, and carry on activities in cooperation with all democratic forces which aim at independence, democracy, peace, neutrality and the improvement of living.

▼アベノミクスの罠(下)

2013-07-13 赤旗【経済】
中央大名誉教授 高田太久吉さん

行き詰る資本主義

 「アベノミクス」がうまくいかないのは、いま起きている経済の根本問題が雇用と賃金にあるという認識が、安倍政権にないからです。

構造に矛盾


 日本経済の回復を妨げている最大の障害は、通貨の不足ではなく、雇用と賃金が増えないことです。健康で働く意思と能力を持った人たち、とりわけ若年層に、企業は人間らしい雇用を提供することができなくなっています。ここに日本経済だけでなく、世界経済が抱えている最大の問題があります。
 大企業がばくだいな内部留保をためこむ一方で、きちんとした正規の雇用を増やさず、賃金も上げないのは、大企業の利潤がこの不正常な雇用関係と低賃金に依存しているからです。この状況を改善しない限り、持続的な経済回復はありません。
 したがって、労働組合は、雇用増や賃上げを強く要求していかなければいけません。
 最近安倍首相も雇用や賃金について口にするようになっています。しかし、首相が企業に要請したからといって、企業が本気で雇用と賃金を増やすことはないでしょう。経営者にすれば、労働市場規制緩和のおかげで、正規雇用を増やさなくても、低賃金の非正規雇用を利用できる。さらに、海外で低賃金労働を利用することもできる。なのに、わざわざ国内で正規雇用を増やし、給与を上げないといけないのか―というわけです。
 それが現在の資本主義の姿であり、裏返せばいまの資本主義はそこまで追い詰められているとも言えます。これは、現代資本主義の構造的な矛盾の表れであり、この矛盾を突破する処方箋(しょほうせん)は、資本主義の構造自体を大きくつくりかえることなしには出てきません。

雇用と賃金


 したがって、日本でも早期に経済政策の目標を、的外れのデフレ脱却から、雇用創出と賃金回復に切り替える必要があります。しかし、安倍政権の「世界で一番企業が活動しやすい国」をめざす成長戦略は、展望のある雇用政策も賃上げも不可能にしてしまいます。
 安倍政権が金融緩和に続いて打ち出している、強靭(きょうじん)な国土づくりという成長戦略がいみしているのは、すでに限界が見えはじめている金融バブルを、新たな不動産バブルにつないでゆく戦略でしかありません。
 ずてに首都圏でも兆候が見られる不動産バブルがさらに膨張すれば、その資産効果を通じて、相乗的な金融バブルをもたらしもす。それは、1980年代末の金融・不動産複合バブルの再現です。
 これを回避するためには、過去数十年間、日本経済を出口のない隘路(あいろ)に追い込んできた新自由主義的な政策を根本的に改める必要があります。
 若者に生きがいを与え、かれらの能力を本当に伸ばしていくような仕事、日本社会の将来に対して信頼感や安心感を持てるような雇用をどうやったらつまりだしていけるのか―。雇用創出と賃金確保による経済回復の展望を提示し、そのための政策を打ち出せる政党や政治が、いま求められていると思います。