浅井春夫氏による「新自由主義」解説

中央社会保障推進協議会 隔月刊『社会保障』No.403 2005年11月 あけび書房、『民医連医療』誌 No.403 2006年2月などよりノート。

新自由主義の特徴

新自由主義の特徴
  1. 1970年代後半にケインズ主義の破綻を背景に出現
  2. 財政危機の主要な原因を福祉国家だとする
  3. 公的責任よりも市場原理の優位性を強調する
自由主義新自由主義

古典的自由主義新自由主義
主敵・超克対象絶対王制・重商主義福祉国家体制
国家との関係国家からの干渉排除、自由放任主義強い国家を背景に市場原理を福祉分野にまで拡張
意義重商主義・脱絶対主義で近代市民社会の基礎を築いたた独占資本主義段階における弱肉強食社会を招来
はじめから強者・弱者と勝敗は決まっていて、社会福祉部門も弱肉強食システムに

新自由主義の理念
  1. 福祉政策、社会保障政策の拡充は怠け者を生み出し、財政赤字を生み、経済を停滞させ、モラルハザードを招来する。「自立した市民」が「半人前の愚民」を養うことになった、という反省。
  2. 福祉・社会保障予算を削減すれば怠け者も自立せざるを得ないし、政府財政も立ち直る。
  3. サプライサイドの経済政策。企業の自由、投資環境の整備が経済の建て直しには必要。
  4. 規制緩和。企業の自由を整備。労働規制・経済規制の撤廃。
  5. 行政、教育、福祉など公的領域にも市場原理を導入して効率化を図る。NPM(ニュー・パブリック・マネジメント)の手法。

新自由主義の人間観

自立した個人
  • 人々の生活に必要なモノやサービスは「市場のコントロール」に委ねる。
  • 家族による私的努力
  • 市場における選択
性悪的怠惰説

人間というものは、福祉を与えれば怠けるし、奪えば自立して働くものだ。福祉を低水準に抑えることは社会全体への負荷を抑えることになるので、財政の健全化を図れる。

新自由主義の虚構

  1. 完全な自由競争
  2. 企業による正確で合理的な判断
  3. 自己決定の必要な情報が全ての人にいきわたる
  4. 個人は賢明な選択を行う

以上はフィクションである。

日本はどこへ

  1. 人命・人格の尊厳を利益・利潤の下におく社会
  2. 民間事業体間競争により粗悪で危険なサービスが生き残こり、提供される
  3. 利益や投資効率優先で地域の生活関連施設のバランス、ネットワークが破壊される。
  4. 経営効率第一で、マニュアル化にそぐわない労働まで定型化・非熟練化し、労働の質が低下する。
  5. 人口過疎地の福祉過疎を招来・激化。
  6. 既存事業分野からの利用者無視の撤退、空洞化、これに伴う失業の急増

これでは自己責任を強調しても結局は社会的弱者を拡大再生産することになる。

ノートは以上。