▼成果主義賃金制度

文言を約してある。

増殖する拝金人間、きしむ職場関係

心理学者デシによると、成果に応じて金銭的報酬が与えられると、その人の仕事に対する興味が低下するという。

 1990年代の長い不況期に、多くの企業は年功人事制度を捨て、成果主義人事制度を採り入れた。ここでいう成果主義人事制度とは、
(1)上司と部下が相談のうえで、半年ないし1年ごとに目標を決め、その達成度によって部下の給与、賞与、昇格などの重要な人事処遇を決める
(2)目標が達成できた者と達成できなかった者の間に、処遇上のはっきりした差をつける(場合によっては後者は人件費の安い派遣、契約社員などに置き換える)、というものである。
 上述のように、あらかじめ目標を立て、達成した者には分配を増やし、失敗した者には分配を減らす成果主義人事制度は、大義名分にかなっており、また、失敗者の分配を減らし、さらにはパート、派遣、契約社員に置き換えるなどして人件費の大幅な節約にも役立った。だが、経営者たちは、予想もしなかったいくつかの重いツケを払うことになった。
 成果主義人事制度の第一のツケは、従業員が、つまらない目標や、やさしい目標ばかりを設定し、高い目標にチャレンジしなくなったことである。年功人事制度でも目標は管理の有力な道具であった。だが、それは目標は内発的動機の喚起要因であった。
 成果主義人事制度の第二のツケは、従業員が自分の目標達成以外のことをしなくなったことである。この制度を導入した多くの企業が、従業員が「後輩や新人を指導育成したり」「仲間と話し合ったり」「お互いに協力し合ったり」などの、生産支援的行動をしなくなったことを訴えている。
 成果主義人事制度のもっとも深刻なツケは、ある人事担当者がいみじくも指摘した問題、すなわち、多数の成果主義・負け組・の、救いようのないモチベーションの落ち込みと、パート、派遣、契約労働など、不安定な雇用がもたらす労働の質の劣化であろう。

 こんにち、3人に1人、とくに若年者の半数近くが不安定な非正規雇用であることによる労働の質の劣化は、労働人口の減少、老齢化とあいまって、将来のわが国産業の大きな不安要因であろう。非正規雇用の正規化など、企業も国もその対策を急ぐことが望まれる。

http://www.president.co.jp/pre/backnumber/2008/4300/4338/4344/

 著者:松井賚夫(立教大学名誉教授)によれば、公開・誠実・公正な人間関係の構築こそが職場で求められている、と述べている。