▼りんごの皮やチョウやトンボが子どもに正義感や道徳観をもたらす

体験こそが子どもの心をはぐくむ

生活体験・自然体験が日本の子どもの心をはぐくむ(抄)(平成11年6月9日 生涯学習審議会答申)
http://nyc.niye.go.jp/youth/book2003/html/04/04_02_04.htm

この答申も、平成10年「子どもの体験活動等に関するアンケート調査」に跳び付いている答申である。

はじめに

 平成8年7月の中央教育審議会第一次答申において,今後における教育の在り方について,ゆとりの中で,子どもたちに「生きる力」をはぐくむことが基本であり,……家庭や地域社会における教育力を充実していくことが提言されました。

 また,教育改革プログラムにおいては,平成14年度から完全学校週5日制を実施することとされ,家庭や地域社会における子どもたちの体験活動の推進や体験活動の場の充実を図ることが課題となっています。

……日本の子どもの心を豊かにはぐくむためには,家庭や地域社会で,様々な体験活動の機会を子どもたちに「意図的」・「計画的」に提供する必要があり,……具体的な緊急施策を提言することとしました。

答申の日付に注意。古いです。

りんごの皮やチョウやトンボが正義感と道徳観をもたらす

I 子どもたちの心の成長には,地域での豊かな体験が不可欠

「子どもの体験活動等に関するアンケート調査」……の結果から,……注目すべきことが明らかとなったのです。

(1)生活体験が豊富な子どもほど,道徳観・正義感が充実

    • 「小さい子どもを背負ったり,遊んであげたりしたこと」,「ナイフや包丁で,果物の皮をむいたり,野菜を切ったこと」といった生活体験の度合いと,
    • 「友達が悪いことをしていたら,やめさせる」,「バスや電車で席をゆずる」といった道徳観・正義感の度合いを,それぞれ点数化してクロス集計したところ,
    • 生活体験」が豊富な子どもほど,「道徳観・正義感」が身についている傾向が見受けられました。

(2)お手伝いをする子どもほど,道徳観・正義感が充実

    • 「食器をそろえたり,片付けたりすること」,「新聞や郵便物をとってくること」,「ペットの世話とか植物の水やりをすること」といったお手伝いをしている度合いと,
    • 「友達が悪いことをしていたら,やめさせる」,「バスや電車で席をゆずる」といった道徳観・正義感の度合いを,それぞれ点数化してクロス集計したところ,
    • 「お手伝い」をしている子どもほど,「道徳観・正義感」が身についている傾向が見受けられました。

(3)自然体験が豊富な子どもほど,道徳観・正義感が充実

    • 「チョウやトンボ,バッタなどの昆虫をつかまえたこと」,「太陽が昇るところや沈むところを見たこと」,「夜空いっぱいに輝く星をゆっくり見たこと」といった自然体験の度合いと,
    • 「友達が悪いことをしていたら,やめさせる」,「バスや電車で席をゆずる」といった道徳観・正義感の度合いを,それぞれ点数化してクロス集計したところ,
    • 「自然体験」が豊富な子どもほど,「道徳観・正義感」が身についている傾向が見受けられました。

子どもたちの心身の健康とか、国語の能力とか生徒会・児童会活動とか、人間関係に関する諸能力とかいろいろあるだろうに、表題が「日本の子どもの心をはぐくむ」となっていることもあってか、日本の政・財・官界に一番腐敗し・廃れている「道徳観・正義感」にまっしぐらである。報告が当時・現在の政財官の腐朽に嘆息し、日本の将来を憂えてこの報告をだしているのならそれも面白いけれど、もしそれなら今の子どもらより「体験」「お手伝い」が豊富であったはずの支配層の各諸人格において如何なるプロセスで退廃が進行したのか、よくよく分析開陳していただきたいものである。


II 子どもたちの体験を充実させるための地域社会の環境づくり〜基本的な視点〜

(1)世界や地域を能動的に変革していく人間づくりを目指す

……

 子どもたちには,地域を愛し,国を愛し,世界をよりよくしていこうとする心をもった人間に成長してほしいのです。このため,子どものころから,自分で課題を見つけたり,自分で学び自分で考えることのできる資質や能力,それを支える正義感や倫理観等の豊かな人間性,文化を大切にする心,たくましく生きるための健康や体力等を備えた「生きる力」を培っていかなければなりません。
 また,一方,日本人に欠けている点として,自己主張がはっきりしない,自分で判断することを避ける傾向があるという指摘をよく耳にするところです。このような傾向は,これからの時代を生きていく日本人が克服していかなければならない課題です。子どもの頃からしっかり自分の意見を持ち,意見の違う人の主張も受け入れながら,合意点を見つけ出して物事を決めていく。自分の行為の結果に責任を持ち,周囲のせいにしない。このような態度や姿勢を積極的にはぐくんでいくことによって,国際社会に通用するコミュニケーションの力も身についていくでしょう。

答申が子どもに期待する資質・能力は奥田時代の経団連が期待しているそれとそっくりそのままである。

まず家庭を叩く。地域を責める。

(2)地域の体験を通して試行錯誤していくプロセスが,子どもを育てる

……家庭教育のありようが,ひいては地域社会の子どもたちの活動に影響を与えることを私たちは自覚し,家庭の役割をしっかり果たしていかなければならないのです。

 子どもたちが,……地域社会の一員として自分たちの住む地域社会の問題を自分のこととしてとらえる機会を持てるようにすること,大人たちと夢や希望を共有できるようにすること,そのような経験の積重ねが自ずと豊かな人間性をはぐくみ,主体的な姿勢を身につけることにつながっていきます。このような取組が広がりを持つことによって,子どもたちが成長したとき,地域社会や自分の国の問題だけでなく,世界が直面する問題に積極的に取り組む意識や意欲が芽生えるものだと考えます。

 しかし,今日の子どもたちは,地域社会の中で,全身で日の光をいっぱいに浴びるように直接体験の機会が豊かに得られる環境に置かれているのでしょうか。子どもたちは,地域社会の様々な大人たちとの関わりの中で,汗をかきながら伸び伸びと活動に取り組むことができるようになっているのでしょうか。残念ながら,子どもたちは,このような環境に暮らしているとは言い難いと思います。いじめ,非行等の問題行動やその背景にあると指摘されている子どもたちの間の正義感・道徳観の低下は,子どもたちの置かれている今の状況を映し出しているのではないでしょうか。

まず家庭を「強迫」しておく。

描かれる子どもらの社会性・公共性の獲得過程はどうか。地域ボスが地方議会に打って出て国政選挙に出るプロセスにそっくりである。まあ、そういう経過を辿る人もいるとして、なんにしても「自ずと」というところがブラックボックスのままである。似たような報告用語として「相乗効果」というのもあるが。

そして、「いじめ、非行の背景」という文言で、実は「いじめ、非行」の、それもある一面の言い換えに過ぎないにも拘わらず「正義感・道徳観の低下」が原因視されている。ゆずって「正義感・道徳観」の如何が「原因」だとしても、それが直接体験の貧弱化だというその根拠は何か。冒頭のアンケートだけである。
それにしても家庭と地域とを責め立てるのは前世紀からであることがわかる。


(3)子どもたちに様々な体験の機会を意図的・計画的に提供していく

……今日の子どもたちの生活体験,社会体験,自然体験は大変貧弱なものとなっています。特に,学年が上がるにしたがってゆとりのない生活を送るようになり,これらの体験から学ぶ機会はますます減少しているのが現状です。現代社会では,……あえて子どもたちに活動や体験の機会を提供することが必要となっています。

 ひるがえって,大人社会についてみると,物質的な豊かさや便利さを追いもとめ続けてきた結果,多くの人々が「企業社会」なるものに埋没してしまい,職場の同僚とのつき合いやサービス残業に追われ,子どもとすらゆっくり話をする時間も持てない状況に陥っていることは,よく指摘されるところです。さらには,社会全体の利益や秩序よりも所属する特定の組織や個人の利害得失を優先するといった公共心や正義感の欠如,自らの発言や行為に責任を持つことなく,他人任せや他者へ責任を転嫁する姿勢,他者との出会いや交流から得られる心の豊かさよりもモノ・カネ等の物質的な価値や快楽を優先したり,専ら利便性や効率性を重視するといった風潮があります。このような社会一般の風潮を見るにつけ,大人社会は,今まさに「次世代をはぐくむ心を失う危機」に直面しているといってよいと思います。

 いまや,大人が,地域社会で子どもと積極的に関わっていない状況,なかでも会社勤めの親が子どもとゆっくり話をする時間も持てない状況を根本から見直し,国民皆がそれぞれの立場で次代を担う子どもたちを豊かにはぐくむために努力する社会に変わっていくために,自らの考えや行動を改めなければならない時期にきているといえるでしょう。私たち大人は,まず自分自身のこれまでの生き方を改め,大人同士が互いに手を携えながら,この危機を乗り越え,子どもたちに「生きる力」をはぐくんでいかなくてはなりません。……

でも! 悪いのは公人ではなく地域のオトナ、家庭の親なのである。責められるべきは地域と家庭なのである。
あと、経済犯や政治家・官僚などによる汚職犯などと、政府・財界が煽ってきた消費社会の退廃とを雇用されて必死になって働いている労働者の過労状態といっしょくたにしないで欲しいものだ。


塾が子どもをダメにする。など。

以下、資料として目次のみ。提言の内容がその後どうなったか、今のところ未調査。
「食育」の推進のように言っていることとやっていることが全く逆のことも沢山あり、目を通していて馬鹿馬鹿しくなってくる。
また、「過度の塾通い」を「これでもか・これでもか」と敵視しているところは面白くはある。長めに引用。(当該記述にJump)

(4)新しい人材や組織の参加により,子どもたちの体験の機会が飛躍的に拡充する
(5)子どもたちをプログラムの企画段階から参画させるような取組により,自主性を引き出す
(6)新しい情報手段の活用により,子どもたちへの働きかけの可能性が広がる
III 今,緊急に取組がもとめられること
1 地域の子どもたちの体験機会を広げる
(1)政府全体が連携し,子どもたちの体験の機会を広げる
【当面緊急にしなければならないこと】

    • 全国津々浦々で地域に根ざした子どもたちの体験活動を展開する
    • 国立公園管理官のお手伝いをしながら,環境保全の意義や苦労が学べる機会を提供する
    • 子どもたちが,農家やユースホステル等に長期間宿泊して,自然体験,農作業等を体験できる機会を提供する
    • 子どもたちが,植林・下刈り等を体験しながら,森林保全の苦労や森林文化が学べる機会を提供する
    • 子どもたちや親子が地域でスポーツを楽しめるきっかけづくりを行う
    • 地域社会における子どもたちの文化活動を充実させる

(2)民間企業の力を借りて,子どもたちの体験の機会を広げる
【当面緊急にしなければならないこと】

    • 子どもたちが商店街で様々な商業活動を体験し,しつけも体得できる機会を提供する
    • 産業界の協力を得て,企業が従業員の家族や子どもに体験活動へ参加するよう促すことを普及奨励する
    • 旅行業界と青少年団体等との連絡会をつくり,自然体験プログラムを充実させていく

2 地域の子どもたちの遊び場をふやす
(1)川・農村のあぜ道・都市公園を子どもたちにとって遊びやすい場にする
【当面緊急にしなければならないこと】

    • 川を子どもの遊びや自然体験の場にふさわしい水辺にする
    • 農村の水路を子どもたちが足を浸して魚つりや水遊びができるようにする
    • 子どもたちが木登りや芝生の中で自由に遊べる都市公園をつくる

(2)大学・専門学校等の高等教育機関や専門高校の教育機能を活かす
【当面緊急にしなければならないこと】

    • 大学,大学共同利用機関高等専門学校の教育機能を子どもたちの体験活動に活かす
    • 専門学校等の教育機能を子どもたちの体験活動に活かす
    • 専門高校の教育機能を子どもたちの体験活動に活かす
    • 学校施設の開放について,利用する側の立場からの利用手続等の弾力化を促進する

(3)博物館や美術館を子どもたちが楽しく遊びながら学べるようにする
【当面緊急にしなければならないこと】

    • 博物館や美術館で,子どもたちが主体的に五感を使って体験できるような展示活動を進める
    • 子どもたちの科学やものづくりへの関心を深める教室を全国的に開催する
    • 子どもたちが最先端の研究成果に触れる機会を提供する
    • 子どもたちが美術に親しみ,理解を深める機会を提供する
    • 学校休業土曜日等の博物館・美術館の無料開放等を促進する

3 地域社会における子どもたちの体験活動などを支援する体制をつくる
(1)体験活動への参加を促す情報を全ての子どもたちや親に提供する新しいシステムをつくる
【当面緊急にしなければならないこと】

    • 親や子どもたちの様々な活動に関する情報提供を行う「子どもセンター」を全国展開する

(2)新しい情報通信手段を活用して,子どもたちに直接働きかける
【当面緊急にしなければならないこと】

    • 衛星通信による「子ども放送局」を創設する

(3)悩む子どもたちの相談に24時間対応できる体制を全国につくる
【当面緊急にしなければならないこと】

    • 24時間体制による子ども悩み電話相談を全国的に整備する

4 子どもたちの活動を支援するリーダーを育てる
(1)子どもたちのためのボランティアを紹介し,参加できる体制をつくる
【当面緊急にしなければならないこと】

    • 全国津々浦々の「子どもセンター」でボランティアを紹介する
    • ボランティア活動についての全国的な情報提供・相談窓口を開設する

(2)学生や社会人が子どもたちの自然体験活動のリーダーとなれるよう,登録制度をつくる
【当面緊急にしなければならないこと】

    • 自然体験活動のリーダーの登録制度に関する調査研究を行う
    • 高等教育機関における自然体験活動の指導者養成を推進する

5 子どもたちを取り巻く有害環境の改善に地域社会で取り組む
【当面緊急にしなければならないこと】

    • PTAがテレビ番組の全国モニタリング調査を行う
    • PTAが地域で成人向けのビデオ等の区分陳列状況の調査を行う
    • 放送に関する青少年対策の充実を働きかける

6 過度の学習塾通いをなくし,子どもたちの「生きる力」をはぐくむ
(1)民間教育事業の今後の方向性
【当面緊急にしなければならないこと】

    • 民間教育事業者に自然体験・社会体験プログラム,創造的体験活動や課題解決型の学習支援プログラムなどの提供を促す
    • 地域の中で異年齢集団による多様なプログラムが展開されるように促す


(2)過度の学習塾通いをなくし,子どもたちの「生きる力」をはぐくむ
a 学習塾通いの実態と子どもたちへの影響

子どもたちの意見

 ……子どもたちは学習塾に通っている間そのものは楽しいと感じていても,家庭や日常生活において学習塾での成績やテストの結果による大きなストレスやプレッシャーを受けていると考えざるを得ません。

  • 夕食は塾で弁当を食べる。夜なかなか寝つけない。
  • テストや勉強のことが気になってなかなか眠れないことがある。
  • 遊びたいなら塾を辞めてもいいと言われるが,今まで塾に通ったことを考えると今更やめられない。仕方ないので中学受験をした後で遊びたい。
  • 塾に行っているときは楽しいが,遊ぶ時間がない。塾に行っていない子をみるとうらやましいがあきらめている。
  • 親が中学受験をするように決めている。よく親,特に母親から勉強するように言われたり,塾での成績が悪かったりすると怒られるのが嫌だ。
  • いじめなどの問題がないといわれている学校を受験したい。
  • 高学年になると塾での時間が長くなるので憂鬱(ゆううつ)だ。
  • 手伝いをするよりは勉強しなさいと親にいわれるので,手伝いはあまりしない。
  • 友達づきあいをきちんとしていないと性格が暗くなって面接に影響があるかもしれないので,ちゃんと遊ぶようにしている。

などの発言。
 基本的には,学習塾における指導は私的な教育活動の分野に属するものであって,学習塾に子どもを通わせるかどうかは,本来保護者の判断に委ねられています。また,学習塾の実態は多様で,児童生徒の学習塾通いに伴う影響なども個々の学習塾や児童生徒等によって様々ですし,学習塾やこれに通う状況は地域によっても異なります。いわゆる補習塾など,その指導によって子どもたちが「学校の授業がわかるようになった」とか「勉強に興味,関心をもつようになった」などの評価を受けているものもあります。しかしながら,一部のいわゆる進学塾などにみられる,長時間に及ぶ通塾や土曜日・日曜日や夜間の通塾によって健康や心身の発達に著しい影響を生ずるおそれのある過度の学習塾通いやその低年齢化は,子どもたちを学習塾中心の生活に駆り立て,そのことにより家庭での団らんが失われたり,それぞれの子どもの発達段階にふさわしい生活体験,自然体験など様々な学習の機会を制約し,望ましい人間形成に悪影響を及ぼすおそれがあるとの懸念が指摘されていて,看過できない問題であると言わなければなりません。
 一方,子どもたちの生活体験,自然体験,家庭でのお手伝いの経験が豊富な子どもほど道徳観,正義感が充実しているという調査結果もでており,子どもたちの「生きる力」をはぐくむためには,豊富な体験や経験が必要といえます。
 本審議会では,子どもたちの「生きる力」をはぐくんでいくためには,特に小学生段階から過度の母子密着関係と成績至上主義の強い意識の中で過度の学習塾通いが行われている現状を改めていかなければならないと考えます。


b 小学校段階からの過度の学習塾通いをなくし,子どもの「生きる力」をはぐくむ
ア.学校教育,入学者選抜を改善する
(ア)学校教育を改善する
【当面緊急にしなければならないこと】

    • 子どもや地域に信頼される学校づくりに積極的に取り組む

【当面緊急にしなければならないこと】

    • 学習塾関係者に完全学校週5日制の趣旨に沿った対応を求める
    • 過度の学習塾通いについての調査研究を行う

7 家庭教育を支援したり,子育てに悩む親の相談に24時間対応できる体制をつくる
【当面緊急にしなければならないこと】

    • 母子保健の機会を活用して,全ての親の家庭教育を支援する
    • 「子どもセンター」において家庭教育に関する情報提供を行う
    • 24時間体制による家庭教育電話相談を全国的に整備する