▼10年位前のイギリスの教育制度・制度改革管見

竹内洋パブリック・スクール──英国式受験とエリート』講談社新書、1993年をウスラ読みして抜粋。


第三章 受験勉強と合否決定のしくみ

……英国は強い階級社会である。階級帰属意識調査でも日本のように90%が中流などとは答えない。1986年の調査では、中間階級と答えた者は25%にすぎない。49%が労働者階級と答えている。……
……英国の大学入学志願書には親ないし保護者の職業欄があるので、志願者と入学者の階級別割合を計算することが容易である。
……専門職と労働者階級の機会指数の違いは9倍〔1倍なら、階級別同年齢人口から同一の割合で大学に進学〕、中間階級と労働者階級の機会指数の違いは7倍にも達している。〔1990年前後〕

第五章 パブリック・スクール支配の秘密

1989-90年の中等教育修了証書の成績優秀者は公立総合制中等学校では30%、私立中等学校は81%である。……Aレベル試験の結果は……公立校の場合はAレベル試験の取得者が少ない。……Aレベル試験をめぐっても公立と私立の学校間格差はきわめて大きい……。
Aレベル試験三科目以上合格者の割合の推移を……みると、公立と私立の比は1960年代からむしろ拡大している。
1960年代は公立の進学校であるグラマー・スクールを廃止して総合制(中等)学校化が進んだときである。ところが、中間階級は危機を感じて次第に子弟を私立校にやる過程でもあった。だから総合制(中等)学校の生徒構成は、階級の雛形ではなく労働者階級の子弟に偏ることになった。

第六章 英国を鏡に日本式受験を読む

英国では、1981年から、学校は学外試験の成績結果を公表しなければならなくなった。親や保護者がその結果を参考にして学校選択をし、学校間競争を煽ることが狙いだった。
試験によって学校を競争させるだけではない。従来の公立対私立に楔をうち、学校間競争を進めようともしている。
……こうして、公立対私立という区画を越えて全般的な学校間競争への煽りがなされている。教育の領域にも市場メカニズムを作動させるサッチャリズムの教育政策のあらわれである。
……近年の英国の教育改革は……成功するだろうか。学校間競争という(教育の質を上げるという)政策意図を骨抜きにする弥縫策に堕する懸念もある。事実、早くもその兆候はあらわれている。中等教育修了証書やAレベル試験の成績をよくするために、成績の悪い生徒の受験科目を減らしたり、中には当日欠席を勧めたりすることがおきている。