▼河北新報社説 小泉政権の5年

共感を以って抜粋

小泉政権の5年・政治手法/派手なパフォーマンスが先行 2006年08月21日月曜日

http://www.kahoku.co.jp/shasetsu/2006/08/20060821s01.htm

 この5年を振り返ると、派手なパフォーマンスと独断専行が、小泉政治の特徴であったと思わざるを得ない。船出の際は、一瞬新風を吹き込んだように見えたものの、意固地な外交姿勢は中韓との関係を冷却化させ、内政でも格差社会が拡大するなど、多くのひずみを生みだしてしまった。

<敵役仕立てる>

 「自民党をぶっ壊す」と総裁選で訴えた意外感、爽快(そうかい)感。今にして思えば、小泉政権は巧みなワンフレーズとサプライズを演出、分かりやすい主張と、抵抗勢力という敵役を仕立てて突破してきた。

 その頂点に達したのが昨年9月の「郵政解散総選挙」だろう。郵政民営化に反対した「造反組」に「刺客」候補を放った劇場型選挙は、メディアに乗って、小泉自民党が圧倒的勝利を収めた。

 物事を単純化させ、二者択一のメニューを用意するやり方は、果たして正しかったのかどうか。複雑に入り組み、めまぐるしく変化する社会の中で、ともすれば、人は頭をひねって考えることや面倒なことは、避けたがる傾向にある。

 それを見越して、選択の幅を限定し、有権者の思考停止を誘った面は否めない。判断材料を数多く提供し、自由に選択させることが、民主主義の原点ではなかったか。

<後退した議論>

首相はこうした仕組みを壊し官邸の機能を強化、トップダウンで物事を決めた。

 二大政党が対決する小選挙区制の定着や、政治資金規正法改正による派閥への政治献金の縮小などを背景に、選挙の顔、また政党交付金の分配者として、首相の権限は強まったのだろう。閣僚人事について派閥の推薦を拒否したことも、首相支配を決定的にしたと言えよう。

今回の総裁選でも、雪崩を打って勝ち馬に乗る現象が現れており、決して良い結果を生むとは思えない。健全な批判があってこそ、民主主義は成熟していくと思うからだ。

<東アジア冷却>
 小泉政治負の遺産も多い。第一は、首相の6度の靖国神社参拝の結果、冷え切った日中、日韓関係であろう。

 先の戦争に対する歴史認識を整理し、共生の道を考えるべきだろう。ナショナリズムをむきだしにすれば取り返しのつかない事態に陥る恐れもある。
 第二は、規制緩和を進め、市場競争を強めた結果、さまざまな面で格差が広がったことだ。

 厚生労働省の06年版労働経済白書によると、非正規雇用は05年に10年前に比べて548万人も増え、1591万人となった。今や3人に1人は非正社員だという。生活保護世帯数も05年度で初めて100万世帯を超え、102万世帯となり10年で1.6倍に増えた。

 懸念されるのは、収入の少ない家庭の子どもが教育の機会でも不利を受け、格差の再生産が始まろうとしていることだ。日本社会は努力さえすれば、それに報いてくれる懐の深さがあったはずだ。その前提が崩れかかっており、危機的だと言わざるを得ない。東京を中心にした都市部と地方の格差も深刻だ。地元に残りたくても就職先さえない。小泉政権はそうした現実から目をそらしてきた。

小泉政権の5年・日米同盟/安保重視で外交の幅狭める 2006年08月22日火曜日

http://www.kahoku.co.jp/shasetsu/2006/08/20060822s01.htm

 小泉外交の5年は、日米関係、それも安保中心に動いた。冷戦後の世界秩序を模索していたころの「漂流する日米同盟」は「世界の中の日米同盟」へと深化した。平和主義日本が国際貢献の名のもと「普通の国」へと変わろうとしている。

 首相は、憲法や安保条約を逸脱する恐れのある問題をも躊躇(ちゅうちょ)なく突き進んだ。2001年の海上自衛隊艦船のインド洋派遣に始まり、陸上自衛隊サマワ派遣、06年の在日米軍再編合意―。矢継ぎ早の決定は、米の対テロ戦争への協力要請に「同盟重視」を最優先した結果だ。

 「より平等な同盟のパートナー」へと、ブッシュ米政権が発足当初から望んでいた通りの展開は、大統領と首相の信頼を強固にした。だが、国内には、首相の説明不足や時には奇弁を弄(ろう)して追及をかわす手法に対する批判や将来を危ぶむ声が多いことを忘れては困る。

 司令部機能の統合や役割分担を明記し自衛隊在日米軍の一体化を一段と進める在日米軍の再編は、ヘッジ戦略の柱である「同盟国の能力向上や弱点の解消」を具体化したもの。この戦略は、日本の国益を増進するのか。とりわけ冷え込んでいる近隣諸国との関係改善に資するか、論議を深める必要がある。

 小泉首相は6月の首脳会談で、米の国家戦略との一体化を進める方向性を打ち出した。

 しかし、米が「テロとのグローバルな戦争」を展開したこの5年、世界が安全になったとはとても思えない。英国が2度もイスラム過激派テロの標的となったように危険は増している。

脅威に対応するには防衛力整備も大事だが、それ以上に大切なのは外交力の強化だ。

小泉政権の5年・アジア外交靖国参拝問題で活力失う 2006年08月23日水曜日

http://www.kahoku.co.jp/shasetsu/2006/08/20060823s01.htm

 日米蜜月の対極をなすのが、小泉純一郎首相の靖国神社参拝により冷えきった中国、韓国との関係だ。首脳対話は途切れ、けんか腰で非難し合う。異常な近隣関係を解決できない日本外交は活力を失い、アジア諸国や米の信頼も揺らいでいる。

「個人の信条、信教の自由」と持論を展開する首相と、「歴史認識の問題。反省は行動で示せ」と批判する中韓両国との溝を深めた。

「心の問題に外国政府がけしからんというのは理解できない」というような被害国への配慮や自制に欠ける発言はあるべき姿ではない。

 アジア外交の立て直しに歴史問題は避けては通れない。

小泉政権の5年 経済・財政/景気回復は改革のおかげか 2006年08月24日木曜日

http://www.kahoku.co.jp/shasetsu/2006/08/20060824s01.htm

 小泉政権の発足当時と今日を比べたとき、経済面における最も大きな変化として挙げられるのは景気の回復だろう。

 問題は、景気回復が何によってもたらされたかだ。

 小泉純一郎首相は「改革なくして成長なし」をキャッチフレーズに掲げ、改革に伴う「痛み」に耐えるよう求め続けた。

 首相の言葉をそのまま受け取れば、構造改革のおかげで景気が回復したことになる。果たしてそうだろうか。

 景気回復の要因については、専門家の意見も分かれている。今後、データに基づいた詳細な分析が求められるが、構造改革を推進したから景気が回復したといった、単純な理由でないことだけは確かだ。

 構造改革の象徴とされた道路公団民営化や郵政民営化にしても、景気回復に直接結びつくものではない。米国、中国など世界的な好況が続いたことも見逃せない。

 首相が果たしたのは、国民に「改革を推進すれば景気は良くなる」と信じさせたことではないか。企業が徹底した合理化、リストラを進めることができたのも、国民が「痛み」をやむを得ないものとして受け入れたことによるだろう。

小泉政権の5年 社会保障/解消されない国民の不信感 2006年08月25日金曜日

http://www.kahoku.co.jp/shasetsu/2006/08/20060825s01.htm

 小泉政権の下では、2002年の医療改革、04年の年金改革、05年の介護保険改革、06年の医療改革と、社会保障制度の改革が続いた。
 いずれも将来にわたって安定して制度を維持するのが大きな狙いだ。しかし、国民の不信感、不安感は一向に解消されていない。

 国民不信の典型が、国会議員の未納・未加入問題で厳しい批判を浴び、大もめにもめた末に決まった年金改革だろう。

保険料が上限で固定される保証はない。一定以上の給付水準も確かではない。しかもそのことを、政府は法案提出時に十分説明しなかった。制度設計の基となる出生率が、政府の予測を下回っていたことも隠されていた。
 政府の改革の基本方針は、国民の負担を増やし、給付を抑制するものにほかならない。

 国民も、ある程度の負担増、給付抑制はやむを得ないと覚悟している。だがそれは、社会保障全体のしっかりした制度設計、税金を含めた負担の在り方、低所得者や病人、高齢者など弱者への十分な配慮などが示されることが大前提だ。

 現実は、財政ばかりが重視され、改革はばらばらに進められてしまった。保険料の引き上げと税制改正による増税が、一緒にかぶさってくるありさまだ。負担増は特に弱者に重くのしかかり、給付抑制はサービス低下に直結している。