強制と拉致

歴史欺く橋下氏「慰安婦」発言

本質は強制連行と強制使役

しんぶん赤旗 2012年11月14日 B版)
 橋下徹大阪市長による日本軍「慰安婦」暴言に抗議するため、10月23日に来阪して講演した歴史学者の吉見義明中央大学教授に聞きました。(大阪府・小浜明代)

吉見義明中央大学教授に聞く

 日本軍「慰安婦」問題は強制連行と強制性の両方が本質ですが、橋下氏は「強制」を軍・官憲による暴行・脅迫を用いた拉致に限定し、その証拠がないと言っています。
 しかし、軍による暴行・脅迫を用いた連行は中国・東南アジアでは数多く確認されています。例えば、日本軍がインドネシアのスマラン近郊の抑留所に収容されていたオランダの女性たちを無理やり連行し慰安所で使役した事件や、1994年にオランダ政府がまとめた「慰安婦」被害報告書があります。
 中国についても山西省などの被害が日本でも裁判になり、被害者の請求は棄却されましたが、裁判所は軍によって暴力的に連行されたと認定しています。
 朝鮮・台湾では、軍または総督府が業者を選定し、業者が誘拐や人身売買などにより連行しましたが、これも強制連行です。
 日本・朝鮮・台湾から女性たちを略取・誘拐・人身売買により海外に連れていくことは当時でも犯罪でしたが、日本軍が使った業者は誘拐や人身売買を日常的にしている人たちです。
 ビルマに派遣された読売新聞記者は、朝鮮人女性がだまされて慰安所に連れてこられたという回想本を残していますし、中国で女性の性病検査を行ったある軍医は、日本人女性が誘拐・人身売買されたと分かっても軍はこの女性を解放しなかったことを語っています。
 さらに女性たちがどんな形で連れてこられたにしても、慰安所で強制されれば「強制使役」というほかありません。ここが重要な問題です。
 93年の「河野談話」は「慰安所における生活は、強制的な状況のもとでの痛ましいものであった」と認定しています。いくつかの軍の慰安所規定をみると、外出は許可制で、外出の自由はなく、兵隊の性の相手の拒否はほとんど不可能で、拒否すれば業者や軍人に殴られるなどしています。軍「慰安婦」制度は軍法下のむき出しの「性奴隷制度」で強制使役されたといわざるをえません。
 橋下氏は、軍の関与は公安委員会が風俗営業を管理するのと同じだとしていますが、明らかに大きな違いがあります。慰安所制度を創設し、維持、拡大した主役は軍だったからです。それは公文書からも明らかで、慰安所は軍の命令でつくられ、利用は軍人と軍属に限られ、料金や利用日も軍が決め、業者に運営させる場合も軍が監督・統制しています。
 橋下氏は「河野談話」での「本人たちの意思に反して行われた」という強制の定義は広すぎると主張します。
 しかし北朝鮮による拉致被害者として警察庁が認定した田中実さんは官憲が直接手を下した例ではありませんが、甘言により本人の意思に反して連れて行かれたとしています。これを強制と定義するのは当たり前です。
 証拠を公文書に限定しようとする向きがありますが、加害者が犯行を記録したものが見つからないから無罪だと判定するのは乱暴な議論です。
 田中さんの拉致を認定したのも供述等によってですが、「慰安婦」問題でも、軍人の回想などとあわせて、資料批判を経た被害女性の証言を事実でないと反証するのは難しいと思います。
 「慰安婦」問題の解決をどうしたらいいのか。例として2007年の欧州連合(EU)議会の日本政府への勧告があります。あいまいさのない明確な認知と謝罪を行うことや事実を歪曲する言動に対して政府が公式に否定すること、史実を日本の現在と未来の世代に教育することなどを求めています。日本が東アジアと世界で生きていくためにはこういうことが必要でしょう。

参考:橋下市長に反論! 吉見義明さん語る〜「強制連行」はあった