▼「関越道バス事故の背景」

ネットでは発表されていないので、誰か公表していないか探していました。

「関越道バス事故の背景」

労働者の発言権不可欠

関越道バス事故の背景  甲南大名誉教授熊沢誠さんに聞く

 関越道バス事故の背景にある労働問題について、熊沢誠甲南大学名挙教授に聞きました。 (聞き手・田代正則)


 金沢から東京ディズニーリゾートに向かうツアーバスが、関越自動車道で事故を起こしたというニュースを見て、背後にあるのは過重労働に違いないと思いました。
 事故の原因は重層的です。2000年の規制緩和によって、貸し切りバス事業者を免許制から許可制に、運賃を認可制から事前届出制に変えました。事業者は4300社に2倍化し、小零細業者が増えた。そこから、企業の激しい価格競争になり、「格安」サービスのセールス戦になる。
 これに日本独自の産業とくに運輸業界の重層構造が関わります。ツアーを企画した旅行会社から、バスあっせん会社、バス会社へと下請けに出され、受注価格はさらに下がっていきます。

過重労働

 実際にバスを運転したのは、陸援隊(バス会社)の従業員ですらなく、自家用バスで自営業をしながら、日雇いで働くアルバイトでした。陸援隊は、休息時間に法規違反はないと主張しましたが、「陰でどれだけ働いたか知ったことではない」ということです。
 遠因から問題にすると、規制緩和→過当競争→格安バスサービス→業界の下請け構造→従業員間の格差構造→「白バス」(自家用バスの無許可営業)利用−となるでしょう。
 労働にしわ寄せする無理で起こったというのがこの事故です。
 マスコミの論調は、命に関わる事故が起こると、さすがに労働者の「自己責任論」を問うえげつなさは息をひそめ、働き方の問題には進みます。規制がどうなっていたのかまでは言及されます。
 しかし、労働研究者の私として不満なのは、死亡事故につながらない限り、価格が安いことは、国民にとってよいこととされていることです。
 低価格サービスの背景にある労働条件のひどさを、消費者としての国民は見逃しがちです。価格の安さは、ひどい労働条件による場合が非常に多いのです。
 たとえば、安くて早い宅配便は、トラック労働者のすさまじい働き方なしには不可能です。290円の弁当や牛丼は、とても正規労働者の賃金水準でできるものではないのです。
 価格破壊は、労務面の圧迫で成り立っています。しかし、よほど品質がめちゃくちゃでなければよいとされ、労働条件が議論されなくなっている。
 死なない限りは、労働者の働き方が問題とされない。交通の場合は、死に至ることが多いから問題になることがあるけれど、サービス業でも製造業でも労働の問題が重要なのです。

労使関係

 そして、もっとも言いたいのは、労使関係の問題として扱う視点が欠けていることです。労働条件の決定について、労働者の発言権、決定への参加権を問題とすること。それが、労使関係の問題として扱うということです。
 拘束時間、休息時間、乗務員数、走行距離について労働組合が発言し決定できれば、こういう事故は起こらないのです。
 労働者の扱い方のひどさは、バスだけの問題ではなく、交通運輸業界に前から存在していたことです。JR西日本福知山線事故にもあらわれています。
 交通に限らず教育現場でも、教師の査定が強化されれば、子どもの問題を報告しなくなり、職場での助け合いも衰退するでしょう。ところが、マスコでは、教師がひどい労働条件でヘトヘトになっていることを特集しても、一言も教育労働運動には触れず、タブーのようになっている。教職員組合を口走った瞬間に偏ったもののように捉えられる。
 労働者の発言権、決定参加権を否定するところには、民主主義はありえないし、サービス品質の維持も安全運転もありえないのです。
 今回の関越道バス事故においても、バス運転者を組織する労働組合を登場させ、発言させるべきです。バス会社のなかでも、労働組合の「うるさい」ところでは、事故を起こしたような劣悪な働き方ではないはずです。

http://na1960.at.webry.info/201206/article_2.html