新自由主義批判と福祉国家

後藤道夫「新自由主義批判と新しい福祉国家の創造」『総合社会福祉研究 第20号』 2002年 総合社会福祉研究所

2002年の文章なので古いといえば、そうなのかもしれないが、私にとっては古くないので、引用については運動論的寛容を期待しつつノートをとります。例によって誤読・曲解なんでもありです。

目次

社会福祉基礎構造改革」と平行して何が起きているのか Jump

(1) 学卒・高卒の就職難・非正規雇用の拡大−−日本型雇用の解体のはじまり Jump
<即戦力がほしい> Jump
<日本型雇用で差別され、その解体でまたいっそう悪条件に……女性> Jump
<年功賃金と社会保障の関係> Jump
<多国籍企業化と日本型雇用> Jump
<多国籍企業型上層労働者と定形業務型の低処遇労働者> Jump
<賃金水準破壊> Jump
(2) 「シャッター通り」の広がり−−自民党型「福祉」の切捨て
<大規模店舗法の廃止> Jump
<自民党の二つの基盤とその衝突> Jump
<その後の自民党> Jump
(3) 空中給油機導入を決めた自衛隊−−海外で戦争できる国家体制へ Jump
<今なぜ遠くで戦争できる体制を求めるのか> Jump
<80年代後半からの激しい多国籍企業化> Jump
(4) 教える内容は3割カット−−公教育のミニマム化と複線型教育体系の構築へ Jump

社会保障構造改革」のねらいと現段階 Jump

(1) 社会保障需要の量的・質的増大と経済危機・財政危機の衝突──その新自由主義的解決──公的保障のミニマム化+自助・民間保険
<介護保険実施で示されたもの> Jump
<公的医療保険の限定という目標> Jump
<アメリカ型の野蛮な社会になるのか> Jump
(2) 社会保障費抑制の背景──多国籍化した大企業の圧力 Jump
<社会保障の「経済効率」が大企業にとって低下> Jump
<国家援助に慣れきっている大企業> Jump
<経済財政諮問会議「基本方針」> Jump
<強い階層分化の影響>  Jump

構造改革」とたたかう Jump

<社会保障改悪反対と「構造改革」諸領域での抵抗の連携>
<対抗運動の担い手>   Jump

社会福祉基礎構造改革」と平行して何が起きているのか

まず、社会福祉基礎構造改革というのを知らない私です。
公費負担方式の措置制度から社会保険方式を基本とした契約制度(利用料などの受益者負担原則の導入)に転換することにより、営利業者の参入を許し、福祉を市場化しながら財政負担は減じていくという改革。社会的弱者から保険料を徴収した上、利用料も頂く。
 (1)公費負担の軽減
 (2)応益負担を原則とする利用者負担の強化
 (3)「負担なければ給付なし」の保険原則の強化
と言えるだろう。介護保険障害者自立支援法などがこうした改革に相当する。


社会福祉基礎構造改革について(社会福祉事業法等改正法案大綱骨子)
  http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1104/h0415-2_16.html


◆2000年の厚生白書で取上げられている。
  http://www1.mhlw.go.jp/wp/wp00_4/chapt-b5.html


◆ちなみに1998年の厚生白書では「自立した個人が支えあう家族・地域」章立てしてあるが、「概要」なので何がどのように自立なのかよくわからない。
  http://www1.mhlw.go.jp/wp/98index.html


社会保障審議会の「社会福祉事業及び社会福祉法人について(参考資料)」には社会福祉基礎構造改革の全体像・進展、「自立」などについて言及されている。
  http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/04/s0420-6b.html


社会保障審議会「社会福祉事業及び社会福祉法人について(説明資料)」にも
  http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/06/s0623-13a.html


社会保障審議会「支援費制度の概要」
  http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/03/s0302-6h.html


◆1999年厚生白書の概要
  http://www1.mhlw.go.jp/wp/wp99_4/chapt-a1.html
厚生省の社会保障制度観が打ち出されている。初めてなのか繰り返しなのかは不知。
ここのページ生存権社会権などという文言は用いず、「権」は「受給権」という語に一度用いられるだけである。社会保障は自立した個人・自立すべき個人を前提とした相互扶助のシステムであるとされている。

社会保障の主な目的を整理すると次のとおり。

  1. 生活の保障・生活の安定:社会保障は、個人では対応し難い不測の事態に対して、社会連帯の考えの下につくられた仕組みを通じて、生活を保障し、安定した生活へと導いていくものである。
  2. 個人の自立支援:障害の有無や年齢にかかわらず、人間としての尊厳をもって、その人らしい自立した生活を送れるように支援
  3. 家庭機能の支援:私的扶養による対応のみでは限界に来ている分野、例えば介護、老親扶養などの家庭機能について、社会的に支援すること。

社会保障の機能は、主として次のとおり。

  1. 社会的安全装置(社会的セーフティネット):生活の安定を損なう様々な事態に対して、生活の安定を図り、安心をもたらすための社会的な安全装置
  2. 所得再分配市場経済の成り行きだけにまかせていては所得分配における社会的公正が確保されない
  3. リスク分散:社会全体でリスクに対応する仕組みをつくることにより、リスクがもたらす影響を極力小さくする
  4. 社会の安定及び経済の安定・成長:生活に安心感を与えたり、所得格差を解消したりすることから、社会や政治を安定化させること。あるいはこうした社会保障給付を通じて、景気変動を緩和する経済安定化機能や経済成長を支えていく機能。

第4節 社会保障は合理的かつ効率的な仕組み
社会保障は、社会を構成する人々がともに助け合い支え合うという、相互扶助と社会連帯の考え方が基盤となっている。……

(1) 学卒・高卒の就職難・非正規雇用の拡大−−日本型雇用の解体のはじまり

 青年の就職口がなくなり、非正規雇用・不安定雇用が激増している。

<即戦力がほしい>

 政府要人や財界のダーたちは、数年前から、景気が回復しても失業率はそう下がらないだろうと言い続けてきた。それは日本の雇用慣行・日本型雇用が崩れてきたということである。
 日本型雇用というのは、高校・大学を卒業してすぐに就職し、会社・企業内で職業訓練を受け・処遇と賃金が上昇し、定年で辞めるというシステムと言える。
 しかしながら、最近は即戦力を企業は求めている。

<日本型雇用で差別され、その解体でまたいっそう悪条件に……女性>

 女性が非正規雇用に囲い込まれるという現象は1970年代から続いており、その比率も上昇してきたが1995年頃からその上昇スピードが加速。現在では女性労働者の半分が非正規雇用である。女性が働いて経済的に自立できる環境は悪くなっている。
 日本型雇用はもともと女性差別的システムである。日本型雇用の年功賃金は女性を専業主婦か非正規雇用であることを想定した賃金システムである。また、女性の賃金・職能は低く抑えられている。

<年功賃金と社会保障の関係>

 年功賃金には家族の扶養・両親の扶養、教育費、住宅費、医療費などが織り込まれている。

<多国籍企業化と日本型雇用>

 80年代半ばから急激に多国籍化・グローバル企業化した。
外国拠点での企業活動環境(為替レート、金利労働市場の状況、環境規制、労使関係その他)に変化がある場合、全世界的に活動の量や質を変動させねばならない。これにあわせて日本国内の雇用も変動させることが必要である。
 だから終身雇用制・年功賃金を柱とする日本型雇用は多国籍行としては解体したいし、解体したのである。

<多国籍企業型上層労働者と定形業務型の低処遇労働者>

 全体として大企業労働者はすでにそうなのだろうが、上層・下層に分けられていく。多国籍企業化した企業の管理部門の労働は複雑で高度である。これらの労働者は数も増え処遇も上がる。教育制度はこの管理部門の上層労働者を育成しなければならない。
 管理部門以外の生産労働者は他国の労働力とも競争しなければならず、処遇は劣化する。多国籍企業の要求に応ずるため終身雇用・年功賃金ではなく、アルバイト・パート・派遣・有期雇用で低処遇となる。

http://www.h5.dion.ne.jp/~hpray/siryou/shakaikeizai/nikkeiren21.htm より引用

  • 財界は、労働者を、”3つのグループ”「長期蓄積能力活用型グループ」「高度専門能力活用型グループ」「雇用柔軟型グループ」に分け、労働力の「弾力化」「流動化」を進め、総人件費を節約し、「低コスト」化しようとしています。
  • 管理職や基幹労働者のみを常用雇用とし、他の2つのグループ(下表右2つ)は、不安定な短期雇用としようとしています。雇用期間のみの不安定化だけでなく、賃金、賞与、昇進・昇格も不安定です。下表右2つには、退職金、年金もありません。現に、この「不安定化」は進行しています。
  • この実施には、労働者を守るための法律・規制を取り払う必要があります。現に、法の「改正」が徐々にはられています。この「不安定化」、労働条件の大幅な切り下げは、働く人々の大きな抵抗・反対運動に合い、一気に進行しているわけではありません。(すでに、経済企画庁は「21世紀のサラリーマン社会−激動する日本の労働市場」(同庁総合計画局編)で、2000年には不安定雇用を3分の1にするモデルを明らかにしていました)

流動化のメリットとしては「能力・業績主義の徹底化」「人材の価値が市場で評価される」など、デメリットとしては「企業に対する帰属意識がなくなる」などが挙げられます。

    • 将来、「長期蓄積能力活用型」従業員が1割程度減少し、「高度専門能力活用型」、「雇用柔軟型」が増加

日経連「新時代の『日本的経営』」1995年5月

「長期蓄積能力活用型グループ」「高度専門能力活用型グループ」「雇用柔軟型グループ」
雇用
形態
期間の定めのない
雇用契約
有期雇用契約有期雇用契約
対象管理職・総合職・
技能部門の基幹職
専門部門
(企画、営業、研究開発等)
一般職
技能部門
販売部門
賃金月給制か年俸制
職能給
昇給制度
年俸制
業績給
昇給無し
時間給制
職務給
昇給無し
賞与定率+業績スライド成果配分定率
退職金
年金
ポイント制なしなし
昇進
昇格
役職昇進
職能資格昇進
業績評価上位職務への転換
福祉
施策
生涯総合施策生活援護施策生活援護施策

以下も参考・参照。
◆旧労働省労組のHPより(未読です)
http://www2s.biglobe.ne.jp/~zenrodo/syutyou/
 労働行政のあり方に関する研究会報告
http://www2s.biglobe.ne.jp/~zenrodo/syutyou/1997.8.10.html


◆「新時代の日本的経営」についてのフォローアップ調査報告(日経連による。ヘッコムに言及能力無し、紹介のみ)
http://www.nikkeiren.or.jp/h_siryou/1998/sin_nihontekikeiei.htm

<賃金水準破壊>

 これまで運転手、大工、小零細工場労働者などの職種別労働力市場は不安定雇用で低処遇の位置に置かれてきた。日本型雇用を解体すると、職種別労働力市場が標準になり企業賃金は一挙に下がる。

たとえば、2001年4月からスタートした、三鷹市の公設民営保育所は、園長さんを含めて、全員を1年契約で180万〜240万の年収で雇いました。三鷹市の公立保育園保育士の平均年齢は38.1歳で、平均人件費は831万と聞いていますから、一挙に賃金コストが数分の1になったわけです。20人採用のところに340人が応募したといいますから、労働力市場としては成立してしまっているわけですね。

◆第1回 働く者の生活と社会のあり方に関する懇談会(2004年1月19日)
  http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/01/s0119-8.html
資料が面白い。

(2) 「シャッター通り」の広がり−−自民党型「福祉」の切捨て
<大規模店舗法の廃止>

 2000年に大店法廃止し、多国籍化して出て行った企業や大手スーパーが大規模店で安価な輸入品を扱うことが容易になった。地元の農業・衣料関係の業者は駆逐された。

<自民党の二つの基盤とその衝突>

 自民党の旧来の支持基盤たる商店、農村に激しい打撃を与える政策を1990年代に自民党自身が取った。これは外的な圧力がよほど強いからであろう。1993年に自民党が分裂して非自民連立政権ができたが、これはその外圧と旧来の集票基盤とのジレンマを分裂によって解決したものと考えるとわかりやすい。
 その外圧は企業の多国籍化、グローバル化と深く関係している。
 多国籍企業になると世界中で自由に活動しなければならず、互恵的にも自国でも他国の企業が自由に活動できるようにしなければならない。それで保護を撤廃し規制を緩和することを強引に実施した。

<その後の自民党>

 分裂後残った自民党は……

  ……目次より 第2章 日本の現状の改革に向けて(〈政治改革〉とは何だったのか
         〈行政改革〉への提言
          野放図な〈規制見直し〉は大混乱を招く
         〈日本経済〉をどう導くか)

    • 1996年 橋本氏「六大改革に命をかける」

   六大改革:社会保障改革、金融改革、行政改革、財政改革、経済改革、教育改革

    • 1999年 第145国会

    国旗国歌法地方分権関連一括法、新ガイドライン関係法、憲法調査会法、中央省庁再編法、農業基本法廃止
 自民党地震が自分の基盤の片方を切り崩さざるを得なくなってきた。多国籍企業化と経済グローバリズムからの強い圧力があるのである。

(3) 空中給油機導入を決めた自衛隊−−海外で戦争できる国家体制へ

 政府は対潜哨戒機への給油目的だというが、それなら基地へ戻れば澄むこと。本当の狙いは遠方の局地戦でヘリコプターに給油したり、長距離爆撃機護衛のジェット戦闘機への給油したりすることである。
 政府自民党はこうした「見え透いたうそ」をつくことができると判断した、国民的抵抗が弱体化していると判断したのである。
 冷戦終結後の今日なぜこうした海外派兵の装備が必要なのか。

<今なぜ遠くで戦争できる体制を求めるのか>

 帝国主義的な軍事的脅威を持ちたいということである。また、1980年代のイラン・イラク戦争イラン革命のあたりで危機に陥った「三井イラン石油化学」関連の日本人の救出には誰も行かなかった。自衛隊日本航空日本海員組合も断った。そういうことのない国にしければならないと言うのである。「援助で戦車は止められない」のである。

(4) 教える内容は3割カット−−公教育のミニマム化と複線型教育体系の構築へ

 上層労働者の育成のために、複線型の学校制度を作る。下は、複線型の学校制度そのものについては触れていないが参考に。

中央教育審議会
 新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について 2003年
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/030302.htm

佐貫浩新自由主義と教育改革』旬報社 2003年
http://www.junposha.co.jp/guide/2kyo/etc/sinjiyu.htm
ちょっと長い引用ですが、「能力に応じて」のくだりは感動しますね。

 文科相は、「中央教育審議会が改正が必要と答申したのだから、行政としては法律を作らなければ不作為になる」(「日経」2003年9月25日付)
 起されている理念や提案には、重大な問題が含まれている。「たくましい日本人の育成」が提起されているが、公教育の目的は決して「国境を越えた大競争の時代に」(「答申」)勝ち残れる「たくましさ」を育てるというようなことに焦点化されてはならない。
 「答申」は、さらに教育のなかで競争を強め、「国を愛する心」を強調している。なぜ人権や平和という価値が、真剣に議論されないのか。政府の政治や政策を無批判に肯定する「国を愛する心」の育成が、教育に求められているとみることは、思い過ごしであろうか。
 にもかかわらず、国民世論において、教基法の「見直し」の議論を進めることに、かなりの賛同があるということはどういうことだろうか。
 一言で言って、日本の学校教育の危機的な状況に対して、いま国民の不安や疑問や不信や怒りやが、複雑に渦巻いており、教基法への疑いが生じているからではないだろうか。
 戦後教育は、この教基法の精神を実現しようという力と、それを否定しようとする力が激しく争う歴史であったこと、そして残念ながら、教基法の精神で戦後教育が展開してきたのではなく、教基法の精神が否定され、時々の教育の課題に対して、それとは異なった対処がなされてきたために、教育の危機が深まっていることを明確にしなければならない。
 にもかかわらず、率直に言って、今日の教育困難、学校教育の危機を、どうやって解決できるかについて、教基法が有効な理念と方法を提起しているのかどうかという点で、今日必ずしも国民的な確信や合意が存在しているとは言い難い状況にある。
 自由や協同の原理を基礎にした教基法の理念が、自分たちのなかで無力なものにみえ、強力な政府や自治体の専制的権限によって教育改革が強引に進められなければ、事態は変わりそうにないようにすらみえているのではないか。
 もしそうであるならば、私たちは、教基法の理念が何であったかの過去を解明することに留まっていては、まったく不十分だろう。……
 封建的制約に対して挑戦する能力主義の原理は、明らかに歴史的進歩を意味したが、今日のような激しい学力競争と能力差を口実にした差別の現実は、むき出しの能力主義人間性と対立する原理へと歪めてきている。教基法はそのような事態に対して、いかなる理念を示しうるのかが問われた。
 この試練に対して、教基法は、その基礎にしている子どもの学習権と民主主義、人間の尊厳の原理にたって、歴史的課題に即して自らの理念を押し上げる力をもっていることを示した。障害児教育実践のなかから見い出されてきた「発達保障の権利」という理念を組み込むことで、教基法の「能力に応じて」という規定を、「発達の必要に応じる教育を受ける権利」へと発展させていった。それは教基法それ自体の論理の発展性によるとともに、同時に、子どもの幸せを願う教育関係者の切実な思い、教育的真理を探究しようとする教育関係者の情熱とその達成の成果に教基法が開かれた構造をもっているからであろう。教基法は、今なお日々の教育実践やたたかいに支えられて、その理念を発展させつつあるということができる。
 今日の「改正」の動向は、日本の教育の土台から教基法の精神を抜き取って、社会的格差を拡大し、人間の尊厳をうち砕く野蛮な新自由主義の基盤での競争主義と、精神の自由を危うくする国家主義の土台に据え直すものである。

社会保障構造改革」のねらいと現段階

(1) 社会保障需要の量的・質的増大と経済危機・財政危機の衝突──その新自由主義的解決──公的保障のミニマム化+自助・民間保険

 1990年代の半ばには社会保障・福祉の需要を公的責任で受け止めるということはやめるという方向を明確にした。今後社会保障全体を二層・三層にして、増えてきた需要の部分は自由市場で購入してもらう。

<介護保険実施で示されたもの>

 介護保険が典型例。介護保険だと給付限度額を超えたものは自費でまかなわなければならない。介護保険は、保険料支払の能否・負担金支払の能否・自費部分支払の能否という三層になっている。

<公的医療保険の限定という目標>

 医療抜本改革は1997年に厚生省案が出たが、これは患者負担の大幅増、医療機関の選別とベッド数の削減、「混合医療」の認可であった。混合診療医療保険の二層化であるが、医師会等の反対にもかかわらず、経済財政諮問会議はやると言っている。

<アメリカ型の野蛮な社会になるのか>

 アメリカのように、社会保障・福祉の市場化や「自己責任」のイデオロギーイデオロギー制度が定着すると元に戻すのが困難になる。

(2) 社会保障費抑制の背景──多国籍化した大企業の圧力

 銀行救済には何十兆円も出した。

<社会保障の「経済効率」が大企業にとって低下>

 1960年代には経済企画庁などは日本を高度な福祉国家にすることが高度経済成長の条件であるなどと言っていたが、今は絶対に言わない。
 企業が多国籍化して、日本国内の消費市場を安定させることの比重や意味が下がってきたのである。保険料の負担ももちろん企業は回避したい。

<国歌援助に慣れきっている大企業>

 50兆円の公共事業費と20兆円の社会保障費。日本は国家財政の大規模な部分を企業援助につかってきた。その事によって企業が成長し・雇用が増え・賃金が上がり…という枠組みを作ってきた。小泉が公共事業を削ったとしても直接に国民生活支援に使うわけはなく、多国籍企業を含む大企業の儲けの為に効果的効率的に使うだけである。

<経済財政諮問会議「基本方針」>

 国家財政の使い方を、高い効率の、社会的に要求度の強い部分を重点とするよう切り替えろ。富を生み出し経済成長を促すのは「労働力ではな」く知恵と知識であると堂々と書いてある。
 公共事業も地方に金をばらまくのではなく、多国籍企業を含む大企業のためのインフラ整備を首都圏中心に行うなど。

<強い階層分化の影響>  

 下層労働者は第三世界の労働力と競争しなければならないので、賃金のみならず福祉・教育・医療も引きずられて下がってくる。所得格差・生活格差が広がる。
 そこで、全員を単一の公的な社会保障制度の対象として、しかも手厚く処遇すると、上層階層の社会保障負担を多くすることになる。そのことに不満を持ち・表明する上層の人達が増え、露骨に負担の軽減を要求するようになり、国民が経済的な階層分裂を強めることになる。

 以上のごとく、日本企業の多国籍企業化による経済変化は社会保障費用を抑制する。

構造改革」とたたかう

<社会保障改悪反対と「構造改革」諸領域での抵抗の連携>

 社会福祉構造改革で苦しむ人は他の「構造改革」でも苦しむことになる。社会保障を守り・充実させるには「構造改革」全体と戦わなければならない。様々な全ての分野の運動が連携しなければ勝てない。連携する人々は大企業の経営者や上層労働者以外の全ての人々である。

1999年度の「単身世帯収支調査」(総務庁)では、女性の単身者の全国の年間平均生活費は約211万円です。……非正規雇用で年間1800時間働くとしたら、時給1200円必要です。

 土日を除く毎日7時間働くのが(拘束8時間)1800時間だから、単身者は簡単には暮らせないと言うわけだ。
 ちなみに、厚生労働省の「平成16年版労働経済の分析」http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/04/dl/01-2.pdf の12ページによれば、2002年の製造業で「日本が1,954時間、アメリカが1,952時間、イギリスが1,888時間であり、アメリカ、イギリスとほぼ同水準となったが、フランス(1,539時間)、ドイツ(1,525時間)」とは開きがある。また、厚生労働省編『世界の厚生労働2004』では日本の一般社員の労働時間は2016時間だそうだ。

<対抗運動の担い手>   

 略。