▼伊勢神宮と日本国

NHKは今年の正月に、伊勢神宮出雲大社遷宮についての番組を立て続けに放映した。

我々があまり・ほとんど目にすることのない儀式や遷宮のための仕事などは、デジタル放送でシャープな映像によっていっそう美しく、また興味深い内容とある種の感銘を我々に与えてくれた。
伝統を守り伝えるための、神職の非常な努力(非俗的な生活等々)や数多くの人びとの支えがあるということもよく伝わった。


日本・天皇伊勢神宮

ただ、次のように日本、国、天皇(制度)という概念や制度が伊勢神宮出雲大社に関係させられて、何気なく語られていることに、番組後半になるにつれ、私には気になってきた。

 伊勢神宮式年遷宮が始まったのは1300年前。“日本”、“天皇”という言葉が使われ始める国家の激動期、藤原京を造営した女帝・持統天皇でした。(伊勢神宮遷宮は)日本という国家と天皇制の永続のために始められたと考えられていますが、1300年もの間受け継がれてきた歴史は、市井の人々にも大切にされ、私たち日本人の精神に寄り添ってきた…。
 しかし、このように古くから日本人とともにあった儀式でありながら、そこに深い意味が込められていることをご存知の方は少ないかもしれません。
 …日本人のルーツ、古代の日本の歴史をひもといていきます。

http://www.nhk.or.jp/special/eyes/26/index.html

 …“遷御の儀”について、神宮内の研究者から…「アマテラスが孫を統治者として地上に送った神話を繰り返し演じている」という(見解が示された)。1300年前に式年遷宮を始めたのは持統天皇藤原京を建設し「日本書紀」を纏め、“日本”“天皇”という語を使い始めた時代の女帝である。…日本という国が誕生した時代の知られざる物語に、最新の研究で迫る。

http://www.nhk.or.jp/special/detail/2014/0101/

…「日本」という国の始まりを紐解くその2つの神話…。『二つの遷宮』は、「伊勢と出雲」、「アマテラスとオオクニヌシ」、…伊勢神宮に祀られたアマテラスよりも先に全国に影響力を持っていたのが、出雲大社に祀られるオオクニヌシ。これまで対立するものとして捉えられてきた両者は、実は、深い慮りによって共存していたのでは…。

http://www.nhk.or.jp/special/detail/2014/0104/


つまり、持統天皇は国をまとめる必要を感じていたし、自分の子孫に天皇を継がせたかった。その持統天皇(の政体)(あたり)が「日本」という国号を使い始めた。それは遷宮の開始の時期と重なる。遷宮天皇の支配(天皇制)をアマテラスによって権威付け・合理化する儀式である。その遷宮は1300年も日本人によって維持され、繰り返されてきた。
一方同じ遷宮を行う大きな神道施設としてはオオクニヌシ出雲大社が存在し、これはアマテラスと対立する(対立者)と考えられてきたが、最近の研究・見解ではそうでもなさそうだ。(出雲大社天皇位を自分の子孫に継がせる天皇制に反するような存在ではないのだ。)


天皇制・「日本」・国・伊勢神宮、これらの根源が一体なのだ、というメッセージを発してなどいない、と番組を観て思うことができるだろうか。
それは自民党改憲草案の日本観に沿うもので、意図的なものだ、と考えるのは穿ち過ぎであろうか。

自民党改憲草案の日本国観

 前文
 日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって、…
 日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、…

https://www.jimin.jp/activity/colum/116667.html

藤谷俊雄・直木孝次郎『伊勢神宮』(1991年、新日本新書)

(あとで、適当な引用を紹介する予定)